上写真=「帰ってきた藤田和輝」がJ1デビュー!(写真◎J.LEAGUE)
■2025年2月15日 J1第1節(観衆32,713人/@日産ス)
横浜FM 1-1 新潟
得点:(横)アンデルソン・ロペス
(新)太田修介
「我慢はしたつもりでしたけど」
16分のことだった。アルビレックス新潟から見て左サイドの井上健太から鋭いクロスが飛んできた。中央でジャンプしたアンデルソン・ロペスを越えて植中朝日がヘッドで狙おうと跳び上がったその手前に、GK藤田和輝が体をねじ込むようにしてから両手で弾き出し、その勢いで植中と激突してもすぐ立ち上がって次のプレーに備えた。
よくボールが見えていて体も動き、つまりは冷静だった。アルビレックス新潟の守護神としてゴールの前に立ちはだかったのは、J2時代の2021年以来、4シーズンぶりだ。そしてこれが、J1デビュー戦。
「試合をやってみて思ったことは、J1では選手の質がやはり高いということ。でも、だからといってキーパーとしてやるべきことは、変わらないんです。そういうことをこの3年間、試合に出て学んで、それを出せたからこそ、ああいうプレーになったと思います。J1でデビューすることができましたけど、僕がやっていることはそれほど去年と変わってないです」
2022年にJ2の栃木SCに期限付き移籍して7試合、23年に32試合でプレー、24年は同じくJ2のジェフユナイテッド千葉に移り、24試合でゴールを守った。この年にはU-23日本代表にも選ばれている。「試合に出る」ということがどれだけ成長の糧になるか。それを藤田が実感し、証明してみせた。
だから、特別な感慨にかき乱されることもなかった。
「別にワクワクも余計な緊張もどっちもなかったですね。もちろん、緊張はどの試合でもしますけど、J1だからと気負いすぎてもよくないと思っていたので、本当にいつも通りの準備をして、いつも通りのアップをしただけです。どの試合だろうが変わらないことで、特別にJ1だからとかJ1デビュー戦だからとか、そうやって自分の気が大きくなったり、いろんなことを考えたりすることはなくて、いままでやってきたことを淡々とやったかな、と」
26分に太田修介が先制し、そのスコアを守ったまま試合は終盤へ。しかし、PKを与えてしまう。アンデルソン・ロペスと対峙した藤田は、そのキックフェイントに惑わされずに最後の最後まで動かずに、その瞬間に右に飛んだ。
「PKは去年は止めていて自信があったんですけど、ああいうところはJ2との差をすごく感じたかもしれません。しっかり最後までキーパーを見るキッカーだったので、僕も頑張って我慢はしたつもりでしたけど」
コースは読んだ。しかし、ボールは伸ばした手のほんの少し先を通過して、同点に追いつかれた。
それでも最後まで安定感は崩さずにゴール前で威圧して、最少失点にとどめてアウェーでの勝ち点1獲得に大きく貢献した。
新潟は昨季までの守護神である小島亨介が柏レイソルへ、準優勝したルヴァンカップでゴールを守った阿部航斗もジュビロ磐田に移籍して、監督交代と同じように、特にこのポジションで大きな変革を迎えることになった。一つの時代が終わり、次の時代に向かうその場所に、アカデミー育ちの「帰ってきた藤田」が立った。
「僕がどれほどそこに順応していけるかは、やっぱりこうやって試合に出続けて、経験して、またチャレンジするっていうだけだと思うので」
プレーへの向き合い方と同じように、口調も冷静で淡々で、でも時折のぞかせる笑みに充実感もにじませるのだった。