川崎フロンターレのFW山田新が、J1で初めてハットトリックを達成した。しかも、その3点目はアディショナルタイムに勝利をもぎ取る感動的な決勝ゴールになった。11月30日の明治安田J1リーグ第37節で東京ヴェルディに5-4と競り勝った一戦で、全ゴールに絡む大活躍だった。

上写真=山田新が全ゴールに関与して、まさにチームを勝たせた(写真◎J.LEAGUE)

■2024年11月30日 J1第37節(観衆26,387人/@味スタ)
東京V 4-5 川崎F
得点:(東)見木友哉、谷口栄斗3
   (川)山田 新3、ファンウェルメスケルケン際、マルシーニョ

「戦犯か、ヒーローか」

 キャプテンマークを巻いたストライカーが、試合終了目前の90+4分にハットトリックを達成し、そのゴールが乱戦にけりをつける一発になってチームを勝利に導いて、サポーターを歓喜で泣かせる。かっこよすぎる。

「はい、かっこいいと思います」

 淡々と試合を振り返っていた表情が、このときばかりはニヤリ。思い切り喜びたい本心がこぼれ落ちた。

「自分が失点に絡んでいたから、戦犯かヒーローか、でした」

 山田はその瀬戸際で戦っていた。16分にPKを決めて先制し、22分にはヘディングシュートで追加点。ところが、42分、49分と決められてリードは消えた。この同点弾はCKからのこぼれ球を谷口栄斗に蹴り込まれたのだが、最初の千田海人のヘディングシュートを体に当ててしまってクリアできなかったのが、山田だったのだ。さらに、4-3でリードしていた83分にはCKからのボールをゴール前でクリアしたのだが、味方に当ててしまってこぼれ、これをまた谷口に決められている。

「だから、最後に取れてよかった」

 自分のプレーが失点を招いたことを気に病んでいたものの、3つのゴールと1つのアシスト、そしてもう1点にも関与していて、つまり5ゴールすべてに絡んでいる。最後のゴールがチームだけではなく自分の心までも救った。

 16分の先制点は、自らが倒されて得たPKを落ち着いて左に決めた。

「(ドリブルのときに)マルシーニョと重なってお見合いになってしまって難しくした形でしたけど、そこで前を向けたのがよかったと思うし、うまくPKをもらえたと思います」

 22分にはヘッドで2点目。ファンウェルメスケルケン際のクロスに下がりながらも強烈なヘッドでたたき込んだ。

「ヘディングシュートは、ボールが良かったのでうまくたたけました」

 2-2とされたあとの57分には、ファンウェルメスケルケン際のゴールをアシスト。左からのスローインを受けると、体を使って粘ってマイナスへ戻してシュートを導いた。

「ああいうところでボールを受けたら、基本はゴールに向かえるのが自分の一番の特徴。相手にとって嫌だと思うし、あそこで怖さを出せるとは思ってます。そこからマイナスのところに誰かが入ってきてくれればいいなと」

 65分にはまたもファンウェルメスケルケン際とのコンビから放ったシュートがDFに当たってこぼれ、マルシーニョがボレーで決めきった。

「シュートがこぼれたところをマルちゃんが決めてくれましたけど、自分がしっかり枠に飛ばしたことがつながったと思います。しっかり抑えて打てたのがよかったかな」

 自分のゴールのことよりも、味方が決めてくれたアシストのほうを事細かに振り返るのは、この人の奥ゆかしさの表れかもしれないが、90+4分の決勝ゴールはまさにエースの仕事だった。GKチョン・ソンリョンがゴールキックを一気に前線に飛ばし、エリソンがヘッドで競って流してくれたボールを左足でフィニッシュ。バウンドして浮き上がった瞬間に左足でミートしてコースに流し込む、高度なテクニックで決めきった一発はお見事。

「エリソンがあそこで競り勝ってくれると信じて、もう本当に狙い通りのところにボールを落としてくれました。前を向いた瞬間にコースが見えたので、思い切って振り抜きました」

 ACLエリートのアウェーゲームを終えてタイから戻ってきて、中3日でのゲーム。厳しいスケジュールだったが、試合前のロッカールームで突然、エリソンに「3点取れ」と言われて、「なんかゴールを取れそうな感覚は試合を通してずっとあった」そうで、「2点取った時点で3点取らないとダメだと思った」と自分を奮い立たせて現実にした。

「フィジカル的な成長ももちろんありますし、メンタルのところではシーズンの戦い方も1試合にフォーカスした中での戦い方もそう。これだけ得点が動く中で、自分がしっかり得点を奪うことを意識して90分間やれたのは、いろいろな経験ができてきて成長を感じる部分だと思います」

 成長実感の19ゴール。プロ2年目のブレイクで、目標とする背番号と同じ20ゴールは目前だ。

「自分が得点しないと勝てないですし、得点だけではなく自分がしっかりいいパフォーマンスを出さないといい試合はできない。自分の責任は去年よりも重くなってきていると思うので、しっかり応え続けられればいいかなと」

 まさに新エース。「自分が勝たせられてよかった」の一言が、その証明になる。

 鬼木達監督は「やるべきことをやり続けてきたから」とその成長に目を細めた。最終節は、退任が決まっている鬼木監督のラストマッチでもある。そこでも、チームを、鬼木監督を勝たせるゴールを。


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