上写真=橋本健人はこの夏に新潟に加わって、左サイドバックで伸び伸びとプレーしている(写真◎J.LEAGUE)
■2024年10月18日 J1第34節(@日産ス/観衆18,781人)
横浜FM 0-0 新潟
「気配というか、雰囲気が」
「君がJ1で戦っていることがうれしい。僕は本当にうれしいよ」
試合が終わったばかりだというのに、橋本健人はピッチを駆け出した。向かった先には、横浜F・マリノスのジョン・ハッチンソン監督。橋本が横浜FCに在籍していた昨年、ヘッドコーチと選手としてともに戦った仲だ。称賛の言葉をもらうと、がっちり抱き合った。
「横浜FCで試合に出ていなかったときも本当に面倒を見てくれていて、いつも『お前はいい選手だから自信を持て』と言ってくれたし、個人で練習も見てくれていたんです。そのときは期待に応えられなかったんですけど、こうしてJ1の舞台でまたジョンと会えたのはすごくうれしかった」
ハッチンソン監督の評価が社交辞令あるいは気休めなどではないことは、そのプレーが雄弁に語っている。新潟に加入して以降、長短を巧みに蹴り分けてチャンスに直結する左足の鋭いパスとクロスに大きな注目が集まっていて、さらにその手前、ビルドアップに関わる賢さでうならせる。
新潟では最終ラインから着実にボールを受け渡して前進していくが、センターバック、あるいはボランチの選手が左サイドバックの橋本の足元にボールを滑り込ませることで、最初のポイントを作る。この日はヤン・マテウスが対面にいたが、この聡明な男が彼の小さなスキを逃すわけはなかった。
「こちらのセンターバックに出ていこうとしている気配というか、雰囲気がありましたよね。だから、わざと距離を取って外側で受けることは意識していました。それで前半は特に自分のところから進入できることが多かった」
小野裕二や小見洋太に送った長いスルーパスは見事だったが、それもヤン・マテウスの狙いを観察して見抜いた上でボールを引き受ける場所を決めた「準備」があってこそ。一方で反省もあって、ヤン・マテウスを外してしまえば逆に、時間と空間が広大だったことだ。
「時間があった割には出せなかった。もっと出せたなって思います。フリーすぎるが故にタイミングが逆に作りづらいというか、自分がドリブルできちゃうので、味方もどこでスルーパスを狙うべきなのか、とか、あとは攻められている時間が今日は長かったので、なかなか攻撃に出力を出していけなくて、じわじわ攻めていきたいという雰囲気が出てしまいました」
そんな、どちらにも傾かない展開の中で狙っていたのが、勝負を決めるセットプレーでの一発だ。キッカーを務めるだけに、実らなかったことを振り返って端正な顔をゆがめた。
「個人的なことを言えば、今日みたいな膠着した試合はセットプレーで一つ取れるようになると大きい。だから、特に自分がそこの精度を上げていく必要がある」
新潟には、クラブ史上初となるルヴァンカップ決勝が11月2日に待っている。名古屋グランパスとのシビアな決戦で、この日の反省が橋本の左足に精度を授けて貴重なゴールを生むかもしれない。