上写真=4-4-2システムで脇坂泰斗にはさらに幅広い役割が求められ、それに応えている(写真◎J.LEAGUE)
■2024年10月5日 J1第33節(@Gスタ/観衆12,753人)
町田 1-4 川崎F
得点:(町)中島裕希
(川)三浦颯太、山田新、エリソン、マルシーニョ
〈第1回/効果的な前からの守備、そして山本悠樹が「ちゃんと見ればしっかり前進できる」からつづく〉
先に考えないと戦えない
FC町田ゼルビア相手の鮮やかな逆転勝利では特に、ポジションにとらわれない中盤の振る舞いがとても魅力的だった。オリジナルポジションが左のボランチである山本悠樹は、右隣に立つ河原創との関係をこう解析する。
「創も僕も、攻撃でも守備でも能力ではがしていくタイプじゃないんです。だからたぶん、考えていることが似てると思うんですよね。守備のときにどこを埋めてから出ていくとか、先に考えてから動かないと戦えない選手なんですよ。その分、創のやりたいことも特に何も言わなくてもなんとなく分かりますし、創も分かってくれてると思うので、いいバランスが取れてるなと」
そういえば、新潟戦のあとで河原もこんなことを話していた。
「守備のときの横の距離感は、少し試合中も話しながらやってました。でも、試合前は特にこれっていう話はあんまりしてないんです」
山本は今季、河原はこの夏に加わった選手だが、話をするまでもない、ということだろう。
そこに加わってくるのが、こちらも「考える」ことでは右に出る者はいない脇坂泰斗だ。山本は「ヤスくんはより危険なところで前を向いてボールに触れさせるのがいいと思うので、そこにどうボールを届けるか」に強く意識を置いている。
脇坂は今季加入した2人との関係が時間とともに深まっていくのを、「目」を通して感知している。
「自分が彼らからタイミングよく受けにいくことが大事になってきます。2人とも今年移籍してきた選手で、試合を重ねるごとにこっちも分かってくるようになってきて、最近、目が合う回数も増えました」
その脇坂は逆転ゴールを導いている。38分、GK谷晃生のキックミスでボールが飛んできて、ワンタッチで縦へ。山田新はそのまま前を向くと、ループシュートでゴール左へと送り込んだ。
何気ないアシストのように見えるのだが、実はこれ、脇坂は超高度の技術を盛り込んでいた。
「確かにGKのキックミスではあるんですけど、僕が杉岡(大暉)選手を後ろに置いたところに立っていて、センターバックにボールが出たら前に寄せられるし、浮き球で杉岡選手に送られても狙うことができました。そのポジショニングを取れたのがまず良かったことで、だから谷選手はたぶん僕のポジショニングを感じて、速いボールじゃないと通らないと思ったんだろうなと」
谷が選択した鋭く低いパントキックは、まっすぐ脇坂の足元へ。つまり、まんまと誘い込んだというわけだ。実際に、谷がボールをキャッチしたのを見ると、脇坂は小さく右横に5回、ステップを踏んでポジションを微調整し、杉岡と谷の間を結ぶ線の上に立った。
さらに、そのワンタッチパスにも胸を張る。
「そこでボール来たときに止めて安心してしまう選手がほとんどだと思うんですけど、僕だからあそこで差せたんじゃないかなって」
まさに、周囲を見る目も判断も技術もパーフェクトだった。脇坂のすごみがすべて凝縮されたアシストだ。
山田新のループシュートを見ながら「滞空時間が長くて少し焦った」そうで、「新はトラップすると決められないので、ワンタッチで蹴られるように出してあげたんですよ。あとはもう何を選択しても決まるようにね。バスの段階で、もう最大のアシストはできたかなと」と笑わせた。
この人の言葉はチームのバロメーター。これだけ軽妙なワードが立て続けに出てくるのは、自分もチームも調子がいい証拠だ。
こうして脇坂はポジションに縛られない場所でプレーすることで相手を惑わせるが、そのトレードオフとして、守備に戻るときは担当エリアである右サイドハーフにまで走らなければならない。町田は攻めに出るときには4人を前線に並べ、さらにその外にサイドバックを配置させるため、守る方は5バックのようになって、脇坂は一番外の相手を見張ることもあった。それだけ長い距離のランを、守備のために費やすことになる。
この「頑張って戻る」という現象が、実は課題の種なのだとも明かす。
「欲を言えば、一人ひとりがあまり動かず、労力を使わずに守るのがベスト。まだ運動量に頼ってるということは、ディテールのところが細かく詰められてないのかな。いまのところはみんなカバーできていますけど」
そこがこの4-4-2システムの伸びしろであるのと同時に、ほころびになるかもしれない。2試合連続で大量得点の勝利と言えども、キャプテンとしては引き締めておきたいところである。
「いまのところ、いい方向に進んではいます。でも、まだ相手が対策できていない部分もあると思うんです。ここから対策されてどうやっていくのか。それが今後は大事になってくる」
その駆け引きがまた、フットボールの愉悦でもある。