川崎フロンターレが明治安田J1リーグで連勝中。その2試合とも4-4-2システムをベースに組み替えて大量点を奪っている。効果を発揮しているのはなぜなのか。10月5日のFC町田ゼルビア戦で逆転勝利を収めた道筋を、プロ初ゴールを決めた三浦颯太や山本悠樹の言葉から紐解いてみる。

上写真=雨の中、声援を届けてくれたサポーターとともに逆転勝利を喜ぶ(写真◎J.LEAGUE)

■2024年10月5日 J1第33節(@Gスタ/観衆12,753人)
町田 1-4 川崎F
得点:(町)中島裕希
   (川)三浦颯太、山田新、エリソン、マルシーニョ

「声」で生み出したゴール

 川崎フロンターレはもがいていた。J1第31節で名古屋グランパスに0-2で完敗した時点で、9勝10分け11敗と黒星が先行。順位も15位にまで沈んだ。

 鬼木達監督は決断する。第32節のアルビレックス新潟戦で4-4-2ベースのフォーメーションに組み替えると、AFCチャンピオンズリーグエリート第2節を挟んで、続くJ1第33節のFC町田ゼルビア戦も新潟戦の立ち位置を踏襲した。

 5-1新潟。4-1町田。結果はともに圧勝である。

 明らかな変化は、山田新とエリソンで2トップを組ませたこと、そしてトップ下だった脇坂泰斗を右サイドハーフに置いたこと。新潟戦のあとに鬼木監督は「やっぱり新しいことはやってみなければと思いました」としみじみ話していた。

「(脇坂)泰斗も右サイドハーフに入ってまたいつもとは違うプレーを見せてくれて幅が広がったと思うし、僕自身も凝り固まっていたかもしれないですね」

 変化にはリスクも伴うが、このチームはメリットをたくさん手にした。それが偶然のものでも、一過性のものでもなかったことは、町田戦の90分ではっきりと示している。

 その町田戦でプロ初ゴールを決め、ダメ押し点のアシストも記録した三浦颯太の実感は、このメンバーによる4-4-2システムの土台をよく説明している。

「やっぱり前からの守備が、新潟戦に続いてすごく効いています。これで後ろはコースが限定されて、すごく守備しやすくて安定しているのが一番です。その安定した守備が攻撃につながっている」

 山田新とエリソンという2トップは、どちらも強くて速い。キャラクターが似ている2人を並べることの相乗効果で、威力がさらに増した。どちらも2試合連続ゴールを決めたし、三浦が言うように、タイミングよく仕掛けるプレスは迫力がある。

 そんな守備の前提を踏まえると、今度は中盤の変幻自在ぶりに感嘆する。シンプルに説明するなら、右から脇坂泰斗、河原創、山本悠樹、マルシーニョの横並び。ただ、実際の姿かたちは面白いように変わっていく。

 マルシーニョがワイドで前に出てウイングになったかと思えば、中に潜り込んで相手を引き付け外のレーンを開放する。アンカー的に構える河原の存在感が安心の源になって、背中を押された山本が意気揚々とゴール前に入ってフィニッシャーになる。その逆もあって、河原が後ろから迷いなく追い抜いてポケットを取りにいく。脇坂が右サイドにこだわらずに中央や左に回って家長昭博のように浮遊しながらつなぎ役になって、そこにサイドバックのファンウェルメスケルケン際と三浦颯太が外からも中からも絡んでくる。

 川崎Fでは選手たちが標語のように口にするのが「相手を見てプレーする」ことだ。それを、今季から加わった山本も体現する。そもそもが頭脳派でテクニシャン。ここへ来てその能力がチームにフィットしてきたのは、言葉の芯の強さからも分かる。

「ああやって(町田が)プレスに来てますけど、ちゃんと見ればしっかり前進できる。そこからリズムを作ったと思います」

 先制したのは町田で、川崎Fは追いかける形になったのだが、山本は「失点してやることが整理されました」と、13分に中島裕希に決められたゴールを逆手に取った。プレスの矢印を見ながら慌てずにつながりを持って壊していったその経緯は、山本のていねいな解説によって解像度が高まる。

「相手が2トップで来るので、うちがセンターバックにサイドバックを加えて3枚で作ろうかという感じのところから、ちょっと自分がサイドに流れてみたりして、どこまで相手のボランチがついてくるか、試しながらでした」

 エサをまいていた。

「で、あまり出てこなかったので、自分のサイドのサイドハーフの裏でポジションを取ったりほかの選手に取らせたりすると、相手のサイドハーフが出てくることができなかったり、変なタイミングで出てきてくれて、 その裏を有効に使えるシーンがかなりあったんです。それで落ち着いて前進できる感覚がありました」

 小さな穴が一つ見つかれば、そこから一気に押し広げていくことができる。

「そこで次に、相手のサイドバックがプレスに出てきたタイミングで、颯太に高いところを取らせると、相手のサイドバックのところで2対1を作れる。マルちゃん(マルシーニョ)もうまく外に張ったり中に入ってくれたりしながら、いい関係性を作ってくれました」

 そして、攻略していった。パスで、そして言葉で。

「あとはそこに僕がボールを届けることと、センターバックに対してそこがフリーだよっていうのを伝えてあげました」

 エリソンが倒されて得たPKは、まさに右センターバックの佐々木旭から左前に出ていた三浦に対角のパスを送り届けたところから始まっている。山本が「声」でゴールを演出したのだ。

第2回/山本悠樹と河原創は似た者同士。そして脇坂泰斗が仕掛けた「誘惑」のテクニックにつづく〉


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