FC町田ゼルビアは14日、アウェーで東京ヴェルディに1−0の勝利を飾り、2位ガンバ大阪との差を5ポイントに広げた。相手に攻め込まれる時間が長かった試合の中で、安定したプレーを披露し、守備を引き締めて勝利に貢献したのがGKの谷晃生だった。

上写真=谷晃生は好調な町田の堅守を支える一人だ(写真◎J.LEAGUE)

クロスから失点がないのは晃生のおかげ(昌子)

 町田の1―0のリードで迎えた88分だった。77分に途中出場した東京ヴェルディの森田晃樹が絶妙なスルーパスに抜け出した松橋優安が低いクロスを供給。中央で待ち構えた山見大登がシュートを放ったが、同点、と思われた次の瞬間、ボールは右ポストの外へはじき出されていた。

 町田の守護神と呼ぶにふさわしいGK谷晃生が鋭い反応でセーブしたのだった。

 開始6分に鈴木準弥の鋭いクロスから東京Vのオウンゴールを誘ってリードを奪った町田だが、前半のうちから東京Vにベースを握られ、特に後半は守りの時間が続いた。トータルのシュート数は町田の5本に対し、東京Vは13本。その数字を見ても劣勢は明らかで、耐える展開となった。

 もっとも、それは町田の黒田剛監督にとっては想定内のことで、早い時間帯にリードを奪えば逃げ切るのがチームのお家芸とも言える。指揮官が説く「勝利の方程式」によって守りを固める戦いはチームとして意識が統一されている。さらにこの日は気温、特に湿度を踏まえ、相手の攻勢が強まる後半には無理に2点目を奪いにいくよりは1―0で終わらせることを重視。56分には3人を交代させて万全を期した。

 それでもピンチを完全になくすことは不可能で、攻撃の鋭さを増す東京Vに何度か決定機を作られた。しかし、そこに谷が立ちはだかった。88分の最大のピンチの他にも13分に山田剛綺が放ったシュートや62分の山見のシュートなど、確実なセーブで失点を防いだ。

 特筆すべきは、クロスへの対応だ。的確な判断で飛び出したときには必ずキャッチしてピンチを防いでいる。今季の町田は、黒田監督が「クロスからの失点はまだ1点もない」と胸を張るように絶対的な安定感を示しているが、それも谷の存在があってこそ。黒田監督は「谷のプレーももちろんですが、ディフェンスラインがそういうポジションをとっていることが大きい」とチームでの守備を強調する。それは確かだろうが、ディフェンスラインを統率する昌子源は「クロスからの失点が少ないのはやっぱり晃生のおかげですよ。これは取ってくれるなと、任せられる」と、守備時の実感を語る。さらに「これまでの経験からセンターバックにとって、キーパーに安心感があるのは本当に大きいんですよ」とその存在感に言及した。

 黒田監督も谷について「まず堂々としていること」とその佇まい、存在感を褒め、「いろいろな駆け引き、GKとしてのサッカーセンスを、彼の感覚の中で持っていることはありがたい、頼もしいGKという印象です」と称えた。

 指揮官や中心選手からその存在感を認められている事実は、谷のGKとしての価値そのものと言えるだろう。

 東京オリンピックでは正GKを務めてベスト4進出に貢献し、フル代表にも名を連ねたが、湘南ベルマーレへの期限付き移籍から復帰したガンバ大阪では経験豊富な東口順昭との併用される中で、ミスを恐れるようなプレーが顔を出して本来のフォームを崩したように感じる。ベルギー2部への移籍という選択も功を奏さず、キャリアが停滞気味になって時に救いとなったのが、J1昇格を果たした町田への移籍だった。

 ここでポジションをつかめたことは、チームにとっても谷にとっても大きな成功だった。チームは堅固なディフェンスをより安定させ、谷はかつてのフォームを取り戻しさらに成長も見せている。6月の日本代表戦で復帰したことは、その証明だろう。

 東京オリンピックでもポジションを争った大迫敬介、鈴木彩艶に先を越された感のある日本代表での序列だが、ディフェンスラインの後ろに構える安心感、プレーの安定感では二人をしのぐ。J1優勝へと進む町田でも、復帰した日本代表でも、谷のプレーから目が離せない。

取材・文◎国吉好弘


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