5月11日の明治安田J1リーグ第13節、FC東京対柏レイソル戦で、熱い思いを胸に秘めた男がいた。バングーナガンデ佳史扶だ。U-23日本代表に「選ばれなかった」男が、アジア王者として凱旋した柏の関根大輝たちを押し込んで、FC東京の勝ち点獲得に貢献した。

上写真=バングーナガンデ佳史扶は3つのゴールにすべて絡むなど、存在感を示した(写真◎J.LEAGUE)

■2024年5月11日 J1リーグ第13節(@味スタ/観衆22,325人)
FC東京 3-3 柏
得点:(F)仲川輝人、ディエゴ・オリヴェイラ、松木玖生
   (柏)マテウス・サヴィオ、犬飼智也、島村拓弥

「ありがとう、って伝えました」

 前半3-1。後半0-2。合計3-3。FC東京は柏レイソルとの一戦で、2点のリードを追いつかれてみすみす勝ち点2を逃したことになる。選手たちは口を揃えて「勝てた試合だった」と振り返り、左サイドバックのバングーナガンデ佳史扶もその一人だった。

「前半は失点を除いたらチームとしてすごくいい入りができて、 攻撃のところもみんなでつながり合ってできてたんですけど、前半の最後に退場者が出てしまったあとの後半は、試合の進め方が自分を含めてなかなかうまくできなくて。最低限の勝ち点1は取れたんですけど、勝てた試合だったと思うので悔しいです」

 前半アディショナルタイムにGK波多野豪が一発退場。結果的にはこれが試合の流れを大きく変えることになるのだが、バングーナガンデも責任を感じていた。

「前半は得点に絡むことができてよかったんですけど、3失点目のところは僕のところでラインがずれて、そのセカンドボールのところで、(ゴールを決めた)相手は僕のマークだったのに反応が遅れてしまって、そういう守備のところで反省点が多い試合になってしまった」

 58分、その柏の3点目は、FC東京から見て右サイドからシュートを打たれる直前にバングーナガンデだけがポジションを下げてラインが崩れた。一度はGK児玉剛が弾いたものの、バングーナガンデが下がったことで目の前の島村拓弥がフリーになっていて、慌てて飛び込んだが間に合わずに押し込まれた。

 この試合に燃えない理由はなかった。U23アジアカップで優勝したU-23日本代表の松木玖生が帰ってきて、柏でも関根大輝と細谷真大が先発していた。FC東京からは松木のほか野澤大志ブランドン、荒木遼太郎が選ばれたが、1クラブから3人までの招集制限があったためにバングーナガンデは選ばれなかった。

「リアルタイムでは見ることができなかったけれど、ハイライトでは追いかけていました。同年代が戦っているのですごく刺激をもらいましたし、A代表のアジアカップのときもそうですけど、やっぱり日の丸を背負って戦っている選手を見るといい刺激をもらえます」

 そして彼らはパリ・オリンピックの出場権を獲得し、優勝カップも持ち帰った。だから、彼らが復帰して最初の試合となる「直接対決」で負けるつもりはなかった。

「レイソルのサッカーでは、セキ(関根)もマオ(細谷)もチームのストロングポイントだと思って見ていました。でも、こっちの左サイドが攻撃で優位に立てたら試合も優位に進められると話していました」

 その通りに、柏の右サイドバックの関根が守るこちらの左サイドで躍動した。ウイングの俵積田晃太との連係はスムーズで、何度も深くまで入り込んではチャンスを作り出した。

「試合を重ねるごとに関係は良くなってきてる感覚がありますし、でもまだまだ改善できるところはあるとも思っています。毎試合毎試合、終わったあとによく話し合っていて、いいところは引き継いでいって、今回も出た課題は改善して、より強固にしていきたい」

 それがゴールに結びつけば、自信も深まる。30分、左サイドで俵積田がドリブル、その前に走り出たバングーナガンデがもらってセンタリング、逆サイドから入ってきた安斎颯馬が倒されてPKを獲得した。32分、ディエゴ・オリヴェイラがこれを確実に決めた。左のコンビネーションが生んだゴールである。

 左深くで受けたとき、バングーナガンデはほんのわずかな一瞬、スピードを緩めた。中央で味方がポジションを取るのを待ったのだ。目の前のDFには守る猶予を与えてしまうことにもなる。だが、技術でそのリスクを排除した。股の間を抜くセンタリングを送って、PK獲得につなげた。

「ちょっとボールがマイナス気味になってしまったので、そこは反省してるんですけど、颯馬がうまく相手の前に入ってくれて、PKを取ってくれたので感謝です。感覚的にはもうちょっと前に出して点で合わせたかったんですけど、颯馬がうまくもらってくれました」

 ちょっとしたズレは安斎のスピードが埋めてくれた。だから、「ありがとう、って伝えました」とはにかむ。

 攻撃の貴重なピースとなり、仲川輝人の1点目と松木玖生の2点目はキッカーを担当したCKから始まって生まれている。つまり、この日の3つのゴールすべてにかかわっていることになる。

 パリ・オリンピックを戦う18人の代表メンバーに入れるか。それがここからの注目ポイントだ。ただ、本人はそんな周囲の声に惑わされない。

「いままでと変わらず、本当に目の前のことに、まず東京でしっかり結果を出したい。目の前のことをやっていたら先が見えてくると思うので、まずはもう次の名古屋戦に向けてしっかりやっていきたいです」


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