夢が、かなった。埼玉県東松山市出身の渡邊凌磨が、子供の頃から憧れてきた埼玉スタジアムで、浦和レッズの一員としてピッチに立った。しかし、結果は1-1のドロー。左サイドバックにコンバートされ、途中から本職の右ウイングに入ってゴールを目指した90分を、喜びと悔しさの両方で振り返った。

上写真=渡邊凌磨(前列右から2人目)が浦和レッズの一員として埼玉スタジアムでスターティングメンバーに(写真◎J.LEAGUE)

■2024年3月3日 J1リーグ第2節(@埼玉ス/観衆50,863人)
浦和 1-1 東京V
 得点:(浦)アレクサンダー・ショルツ
    (東)木村勇大

「勝てなければ意味がない」

 夢が、かなった。

「埼スタで声援を聞けたのは良かったですけど、勝てなかったからね…… ちょっと悔しいっすね。もったいないなっていう感じです」

 その昔、小さな渡邊凌磨は、父と叔父と一緒にこのスタジアムにいた。赤いユニフォームに憧れた。エメルソンが好きだった。その快足FWの移籍が報じられると、凌磨少年はぼろぼろと泣きじゃくった。

「かわいかったよね、凌磨は」

 父の亙さんと叔父の崇さんが声を揃えて笑う。

 その父と叔父はもちろん、家族、親戚一同がこの日、埼玉スタジアムのスタンドで見守った。少年が大人になり、浦和レッズの一員として、赤のユニフォームを着て、戦うのだ。

 だが、1-1のドロー。フル出場を果たした渡邊は「勝たないと本当に意味がない。あれだけ応援してくれていても、やっぱり勝ちを届けないとマジで意味ないと思うんで」と負けず嫌いが顔を出した。

 FC東京から加わった今季、いきなり左サイドバックのポジションを与えられている。攻撃的な役割ならばなんでもこなせるテクニシャンが、ほとんど経験のない場所で奮闘する。

「毎試合、学べることがたくさんあるし、学びながらやっているのはいいこと。不安もないわけではないけれど、でもその不安は試合中に一つずつ取り除けていて、成長している実感はある。まだまだできるなって思ってるんで」

 開始早々の3分にいきなり見せ場を作った。左サイドで受けて、前橋育英高校時代のチームメートでもある小泉佳穂とワンツーで中に潜り込むビッグチャンス。ここで自慢の右足を振って…と感じさせる流れだったのだが、左の松尾佑介へのパスを選んだ。ボールはそのままゴールラインを割る。

「ちょっと遠かったので、どうだろう、と思ったけど、でもあそこでもっと積極的にゴールに向かえるようにしていきたい」

 貪欲な姿勢を示すことができなかったのは大きな反省だが、ほかにも相手のサイドバックの内側を通して松尾を走らせるきれいなミドルパスを通したと思えば、今度は右のアウトサイドキックで外側から巻いて内側から松尾を抜け出させるなど、左サイドバックからでも攻撃の起点になれるセンスを見せたのも確かだ。

 すると、ペア・マティアス・ヘグモ監督は、その攻撃的な資質を生かす采配を振るった。61分に3枚替えを敢行したタイミングで、渡邊を右ウイングに動かしたのだ。

「本職だけど、なんかすごい景色が違ったし、もう少しやれることはあったかなという反省もあります」

 浦和に来てからは練習でもほとんど配置されていないポジションだが、そこでプロの世界を生き抜いてきた自負がある。

「どこで出てもやれるように、ちゃんといろいろなところの戦術を理解していたいし、やれることを増やしていきたい。あそこで使われるとは思ってなかったし、言われてもいなかったんだけど、でも、そういうこともあるっていうことをこれで知ることができたので、またいい経験になった」

 こうして、「埼スタデビュー」は終わった。試合終了の笛が鳴り、相手選手とあいさつをかわすと天を仰いだ。夢を叶えるという大きな一歩を踏みしめたことと、勝てなかったこと。その両方を抱えていま、あの頃の凌磨少年に声を掛けるとしたら?

「セレクションで落とされたけど、トップチームで試合に出られたよ、って言いたいです」


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