柏レイソルは12月9日に国立競技場で開催される天皇杯決勝に臨む。大一番を前に、今年からコーチを務める大谷秀和が栄冠をつかんだ2012年度大会を振り返る。発売中の『バンディエラ ―柏レイソルの象徴のが過ごした日立台へのサッカー人生―』(鈴木潤・著/ベースボール・マガジン社・刊)からエピソードを抜粋し、紹介する(後編)。

今年から柏レイソルのトップチームコーチを務める大谷秀和(写真◎小山真司)

タニとの対戦は楽しかった

「自分たちが90分を通して主導権を握るサッカーをしていたわけではないけど、2年間で経験したものがあったから、延長戦やPK戦の可能性も頭に入れながら、その中で自分たちには1点のアドバンテージがあるという考え方だった。もし失点したとしても同点になるだけで、試合が終わったときに勝っていればいい。そういうどっしりとした心構えは、ピッチに立っていた選手全員が持っていた」(大谷秀和)

 前身の日立製作所サッカー部時代からは37年ぶり、柏レイソルとしては初の天皇杯優勝。日本サッカー協会名誉総裁、高円宮妃久子殿下から天皇杯を授与された大谷は、痛めた左腕をそっと添える形で、右腕一本でカップを掲げた。そして、そのシーズン限りでチームを去ることが決まっていた水野晃樹と安英学に天皇杯を手渡した。水野は「最後、カップを上げさせてくれたのはタニの気遣い。カップを持たせてくれてありがたかった」と感謝の言葉を口にした。

 大谷と中盤で激しい攻防を繰り広げた明神智和は、数年後にこのときのマッチアップを振り返った。

「こちらにとっては嫌な選手でした。気づくとそこにいるというか、嫌なところを狙っているし、いつもこちらが嫌がるプレーを選択するんです。それを見て『レイソルの中心選手なんだな』と思いました。タニが攻撃に絡むシーンも多くて、『やっぱり上手いなあ』と敵ながら思いましたし、あの試合以外の対戦でも、ダブルボランチを組む相手の特徴によって自分の役割を変えて、攻撃的なボランチと組む場合はタニがバランスを取るという使い分けも上手かったですね。あと、これはお互いにだと思うんですけど、対戦していて『絶対に負けないぞ』という気持ちがありました。こちらにとっては嫌な選手でしたが、タニとの対戦はやっていて楽しかったです」

 ふと見せた明神の柔らかい表情が、「楽しかった」という言葉が本心であることをうかがわせた。


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