上写真＝大迫勇也は緊迫の展開でも冷静な判断と技術で勝利をもたらした（写真◎J.LEAGUE）
■2023年11月12日 J1リーグ第32節（＠埼玉S/観衆48,144人）
浦和 1-2 神戸
得点：（浦）ホセ・カンテ
（神）マテウス・トゥーレル、大迫勇也
「前川のは慣れてますから」
第一声は「ラッキーでしたね」だった。大迫勇也が自ら決めきった驚きの決勝ゴールは、この男にとっては幸運だったというのだ。もちろん、ただの幸運であるはずはない。
90＋1分に1-1の同点に追いつかれて、残りの目安は5分ほど。ピッチの中では、大迫を中心に「まだまだ行ける！」の声がかかったのだと佐々木大樹は明かしている。まだまだ、は本当だった。
負ければ優勝がなくなる浦和は、さらに攻めに出てくる。5分後、神戸の左サイドでFKを得ると、GK西川周作がラストチャンスとばかりに神戸ゴール前に上がってきた。キッカーの中島翔哉はまさにそこのエリアを目がけて蹴ってきた。西川が飛び込む。しかし、直前で神戸のGK前川黛也がキャッチした。
神戸のエース・大迫はその西川の攻め上がりを見て、守備をするために自分のゴール前に戻ることをしなかった。相手のゴールはがら空きなのだ。あえて攻め残って、逆襲の一本を狙っていた。まさに虎視眈々である。
「相手も絶対に1点がほしい状況で、もちろん僕たちも絶対にほしいので、（西川が）上がったのを見て冷静に判断できたかなと」
そこへ、前川黛也からのパントキックが飛んできた。前川は「ブレ球になってブサイクなキックだった」と苦笑いだったが、大迫は「前川のは慣れてますから」と涼しい顔。きちんと収めるのはこの人の大得意で、相手が戻り切る前に右足でていねいにゴールへと送り込んで、衝撃的な決勝ゴールをもぎ取ってみせた。
「目の前の試合にしっかりと勝つことを目標に取り組んだからこそ出た結果だと思います。チーム全員がハードワークしたご褒美みたいなもんじゃないですかね」
チーム全員のゴールだと振り返る大迫を、酒井高徳は「サコはもう、本当に頼りになりますね」と満面の笑みで褒め称える。一致団結するチームの中心に、背番号10はいる。でも、本当のご褒美はまだ先に取ってある。
「引き続き、残り2試合やるだけですし、しっかりと目の前の試合で勝ち点3を取れるように、そういうふうにチームを仕向けるように、僕たち経験のある選手が先頭に立ってやるだけだと思います。頑張ります」
ラストスパートの決意が、簡潔に大迫の口を突いて出てきた。ヴィッセル神戸、J1優勝に王手である。
