10月20日の明治安田生命J1リーグ第30節で、浦和レッズは小泉佳穂と荻原拓也のゴールで柏レイソルを2-0で下している。中でも、53分の小泉の先制ゴールには、いまの浦和の充実ぶりが詰まっている。

上写真=小泉佳穂の先制ゴールには、浦和の好調の理由が隠されている(写真◎J.LEAGUE)

■2023年10月20日 J1リーグ第30節(@埼玉ス/観衆25,991人)
浦和 2-0 柏
得点:(浦)小泉佳穂、荻原拓也

画像: ■2023年10月20日 J1リーグ第30節(@埼玉ス/観衆25,991人) 浦和 2-0 柏 得点:(浦)小泉佳穂、荻原拓也

「ちょっと窮屈」から生まれた立ち位置

「偶然じゃなくて、チームとして意図して生まれたゴールだったな、と」

 小泉佳穂が53分に決めた自身の今季リーグ戦初ゴールを振り返る姿は、とても誇らしげだった。何よりも喜んだのは「チームの設計としてよかった」からだ。

 一連のアクションを「分解」して振り返っていくと、浦和のいまの強さの一端が見えてくる。

 酒井宏樹が右サイドの少し内側でアレクサンダー・ショルツからの横パスを受け、その斜め右前、タッチライン際には大久保智明が構えた。酒井の前方にいた伊藤敦樹は前へのランをかけていたが、横にずれた。空いたスペースに入れ替わるようにして中央付近から飛び出したのは、後半にトップ下に入ったばかりの安居海渡である。

 ここまでの人の動きは、選手たちの前半からの継続的なコミュニケーションから生まれている。右サイドハーフの大久保がそのメカニズムを明かす。

「前半は(右サイドバックの酒井)宏樹くんと(ボランチの伊藤)敦樹くんとずっと、相手は崩れそうだねという話はしていて、でもこっちもちょっと窮屈だよね、と。じゃあ、僕は一番外で高さを調節して、宏樹くんは内側を走ってと言っていました。相手の左サイドハーフの選手が頑張っていたんですけど、あれだけ頑張れば絶対に続かないのは分かっていましたから」

 まさに、大久保が外、酒井が中の立ち位置から先制ゴールへの道は開けた。

 続いて、大久保は酒井からのパスをワンタッチで背後に送って、安居の走る先に届けた。再び大久保の解説。

「海渡が走り込んだのが見えていて、うまく通せてよかったです。あれは敦樹がランニングしようとして止まってくれたことによって、全員が敦樹を見ていたんだと思います。たぶん、相手のスカウトも僕から敦樹の背後へのパスがあるのは分析していたと思うんですけど、そこで海渡が走ってくれて、本当にいろんな選手が関わったゴールでした」

 一斉に動き出すのではなく、味方のことも相手のこともよく見ながら、段階的にボールと人が動いていくその間合いが絶妙で、そこにパスの技術が加わって完全に柏の守備陣を崩した。

 ペナルティーエリアの中で受けた安居はそのまま強烈なシュートを放ち、GK松本健太がはじいた。そこに入ってきたのが小泉だった。

 小泉はこの試合を左サイドハーフでスタートしていた。8分に関根貴大が負傷で交代すると、代わりに入った髙橋利樹がそのまま中央でプレーしたのだが、途中から入れ替わって小泉がトップ下に入った。

「監督からポジションチェンジをしようという指示がありましたけど、試合前からそのプランはずっとあって、流れが悪かったら変えようと話をしていたんです。ただ、変えたんだけれど結構難しくて、あまり効果的なポジションでボールを受けることができませんでした」

 その反省を、後半にきちんと生かしている。

「後半は安居が入ってきてくれて、自分と近いポジションでお互いに前後左右でスペースを見つけ合いながらというか、いい関係を築きながら相手を揺さぶることができたことが、相手のギャップを生む要因になったのかな、と」

 安居が右サイドでボールを受けたシーンに戻る。そのとき、ゴール前には髙橋が突っ込んでいき、左サイドハーフだった小泉は中央のやや後ろのエリアに急加速して進入した。

「感覚的には、マイナスの位置が空くと思っていました。裏を取った分、マイナスがすごく空くからその位置を狙いつつ、安居は絶対にクロスを上げてくると思ったんですけど、シュートになってもこぼれ球のところに反応できました」

 右サイドを崩したときには左サイドハーフがフィニッシャーになる意識が、小泉を「そこ」に走らせていた。

「あのポジションにしっかり入れたことが、個人としてもだし、チームの設計として僕がそこに入ってくるようになっているということがすごくいいのかなと」

 そのことを、もう一度別の言葉で表現したほど、納得のゴールになった。

「右サイドで最後まで本当にいい崩しをしてくれて、そのときにはフォワードと逆のサイドハーフが中に入っていこうという狙いがチームとしてあったので、偶然じゃなくて、チームとして意図して生まれたゴールだったなと思います」

 右サイドでは窮屈だという選手の肌感覚から、ポジショニングを整理した。左サイドでも安居と小泉の距離感を調整した。こうして、柏の緊密なブロックに少しずつ揺さぶりをかけて、穴を開け、ついに崩した。前半はうまくいかなくても、小泉は「焦れずに相手を動かし続けて、走らせ続けてギャップを作り出すのは、90分通してのプランニングだった」と、平静な心で向き合ったチームの精神力の高さを称えた。

 ところで、小泉の最後のフィニッシュのシーンについて、「シュート自体はそんなに難しいものではなかったです」と振り返った……が、すぐあとに言い直している。

「あ、いや、でも結構難しいんですけどね。カバーに入る選手がいるから。でも、本当に気持ちで押し込んだというか、勢いで決めきることができてよかったです」

 左からスライディングでブロックを狙う相手が一人、はじいたGKが前に出てきて、カバーには2人が入っている。少なくともこの4人には絶対に触らせないようなシュートの強さと高さを選んで実行しているそのことが、小泉の真髄を物語っている。


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