9月19日からAFCチャンピオンズリーグ(ACL)東地区のグループステージが始まる。アジアの初戴冠を目指す戦いを前に、川崎フロンターレの脇坂泰斗にフォーカス。J1では苦しむチームにあって、個人としては好調を維持する現状やACLに臨む思いを聞く3週連続インタビュー企画をお届けする。まずは、脇坂泰斗というフットボーラーの、飾らないいま。

上写真=脇坂泰斗は自らの好調を実感している(写真◎サッカーマガジン)

いろいろなポジションから得点を取れないとダメ

――まずはあまり芳しくない話題になってしまうのですが、チームは残念ながらJ1で第22節ガンバ大阪戦、23節ヴィッセル神戸戦、24節サンフレッチェ広島戦と3連敗を喫しました。8年ぶりのことです。

脇坂泰斗 そうなると僕がユースのとき……いや、違いますね、大学生のときだ。

――だからもちろん、脇坂選手にとっても初めての経験というわけです。こういうインタビューの機会だからこそ、フラットに見て、現状における課題とその最優先事項はどこにあるのか、分析を聞かせてください。

脇坂 最優先事項はやっぱり「勝つ」ところ。これは間違いないですよね。じゃあ、どう勝つのか、という部分が一番大事になってくるわけですけど、そこをもっと整理しないといけないなと。

 攻撃で圧倒してきたチームですから、そこはぶれてはいけないと思っています。「勝つ」って漠然と言うことは簡単なんですけど、相手をどう倒していくのか。守り切る戦いというよりは、先制点を奪って、追加点を奪って、相手が取り返そうと出てくるところを利用して、また点を取っていく。そういう攻めていく姿勢は、フロンターレのずっといいところですから。

 そこにプラスして、やっぱり切り替えの部分や守備の堅さが伴ったからこそ、圧倒して戦えていたシーズンがあったと思いますから、そのベースも大事。その上でやっぱり、ストロングはといえば攻撃だと思うので、どう勝つのか、の答えは、得点をどんどん重ねて勝つ、ということになると思います。

――J1で連覇を果たした2020年、21年は面白いように得点を奪っていましたからね。

脇坂 いまは僕が7得点(第25節終了時)で、チームのトップスコアラーですけど、いろいろなポジションから得点を取れないとダメだな、と。

 もちろん、2列目の選手が点を取れているのはチームとしてとてもいいことですし、幅広く点が取れるのもフロンターレの良さで、これは続けていかなければいけない。でもいまは、ゴールが足りていない、というか、まだ強みを出せてないという認識ですね。

 もちろん、みんなにその意識はありますし、フォワードの選手も細かく駆け引きしています。でも、そこにボールが出ていかないシーンも多いし、その手前のビルドアップで引っかかったりもしています。これはもうチーム全体の問題で、マインドとしてはもう一つ、攻撃のところに持っていく必要があると僕自身は感じています。

――鬼木達監督も試合後の会見で、同じニュアンスのことをおっしゃっています。攻撃面における整理整頓、ということですね。

脇坂 そこを合わせていく作業は、やっぱりチャレンジしないと次につながらないんですよ。前線の動きは見えているけれど、パスを出すのをやめてしまう、ということをずっと続けてしまうと、成功体験にならないんですよね。チャレンジすることで変わることはいくらでもありますし、オニさん(鬼木監督)も練習から言ってくれていて、僕たちももっとチャレンジしなければいけないと感じています。

画像: いろいろなポジションから得点を取れないとダメ

広島戦1G1Aに見る技術の粋

――ゴールという視点から言うと、敗れはしましたが、広島戦の得点とアシストは素晴らしかったですね。

脇坂 広島さんは前に奪いに出てくるパワーが強くて、僕たちのビルドアップをより前で引っ掛けて攻撃していきたい、という狙いがあったと思います。とはいえ、うちの前線の3枚を3人のディフェンダーで守ろうとするので、その背後や一人をつり出したときの裏のスペースはこちらの狙いどころとして持っておこうという話はしていました。だから、3バックの間をいかに開かせるかがポイントの一つでした。

――それが、1-1となる24分の同点ゴールで示されました。登里享平選手が左外で受けて内側のジョアン・シミッチ選手に預けると、スルーパス。抜け出した瀬川祐輔選手が中央に送り、脇坂選手が冷静に右足で押し込みました。

脇坂 そのシーンで言うと、塩谷(司)選手と荒木(隼人)選手の間を開かせることができたわけです。うちのサイドバック(登里)がボールを持ったところでチェックしようと相手のウイングバックが出てくると、その後ろの3バックの一人、このシーンでは塩谷選手がカバーに出ていかなければいけないという状況が作れたのが、まず良かった。その背後をジョアン(シミッチ)の特徴である縦パスで突くことができました。

 そういう一連のプレーを一瞬一瞬で合わせることができたのが、まず素晴らしかった。そこから(瀬川の)センタリングに対してシン(山田新)がニアでつぶれてくれて、その後ろに僕がいて、さらにファーにアキさん(家長昭博)もいましたから。

――外をきれいに崩して、中にも人数が揃う。もう狙い通りというか、教科書通り、お手本通り、練習通りみたいな、そんな感じですね。

脇坂 まさにそうですね。形としてこうやろう、ということは特に話してないんですけど、 3バックの間を広げて、背後を突いていって、センターバックをつり出して、という狙いがあった中で、再現性が高いゴールになったんじゃないかと思います。

――アシストについてはいかがですか。71分に2-2に追いつく山根視来選手のゴールを導きました。右からの瀬川選手のパスを受けて、巧みなヒールパスを送っています。最初は少しボールが跳ねたようにも見えましたが。

脇坂 いや、最初に収めたときにはすでに、完全に僕のボールになっていました。だから、川村(拓夢)選手も突っ込んで奪いに来るというよりは、僕にシュートを打たせないような体のアングルにしてきました。ボールを止めたときには視来がローリングしてくるのは見えていたので、瞬時にヒールパスの判断にしたわけです。

――その落としのパスの角度や強さ、スピードもパーフェクトだったので、落ち着いて流し込む余裕を山根選手に与えることができましたよね。

脇坂 あのスペースを直視したわけではないので、本当に感覚だけだったんです。ただ、右足で打ってもらおうとは思って、あまり当てすぎるとマイナスになりすぎてしまうので、そこは意識しましたけど。

スケールを大きくしていく

――第25節までですでに7ゴール、これはキャリアハイですね。4アシストも記録していて、プレーするポイントがよりゴールに近くなった印象も受けます。

脇坂 これまでよりもより高い位置で、という意味では、あまり意識していないですね。というよりは、受ける場所に意識を置いていると言ったほうがいいかな。サッカーはポジショニングがすべてで、それで勝負は決すると思っていますから。

――つまり、高いか低いか、という視点ではないと。

脇坂 データとしてどう出ているかを見てはいないですけど、確かに仕事をしているのはより前でプレーできているときではありますよね。ただこれは、僕だけではどうしようもできないところ。

 最近では最前線にシンが入ることが多いですが、スペースを広く使って相手のラインを下げることができる選手で、アキさんやセガ(瀬川)もそう。相手を引きずりながらラインを押し下げてくれるので、そこに自分が前向きで絡むようには意識しています。そうすれば、相手のボランチよりも先にボールに触れることも増えてくるので、それが高いエリアでプレーできていると見える理由かもしれません。

――味方のキャラクターや相手の状況によって、相手にとって嫌な場所を選んでいく、という基準ですね。

脇坂 相手がどこを嫌がるのかというのは常に考えていて、状況によって変わってきますし、ゲームの流れや相手の配置によって立つ位置が決まってくるところもあります。もちろん、できるだけ前で仕事をしたいとは思っているので、そこが最近はゴールに絡めている要因ではあるのかなと思います。

――アスリートの皆さんは調子の波を敏感に感じ取るとよく聞きます。そういうバイオリズムの観点からすると、いまの好調は実感できていますか。

脇坂 コンディションがすごくいいな、というのは感じていますね。ただ、それは最近ということではなくて、僕の感覚ではもう6月ぐらいからずっと維持できているんです。

――神戸戦ではブルドーザーのように相手をなぎ倒すというか、これまでの脇坂選手のスタイルとは少し違う姿を見ることができて、スタンドも沸いていました。そこで心身ともに充実している様子が伝わってきたんです。

脇坂 神戸戦については退場者が出てしまって(37分に大南拓磨がレッドカード)、局面で1対2という状況ができやすくなってしまいました。それで無理するシーンが多くなりましたけど、でも逆に言うと、1人で2枚はがせばいいわけです。そのためには11対11のときとは違う判断が必要になりますから、ドリブルを選んだり、少し自分で運んでからコースを作ったり、という判断になったんです。

 そうすることで、自分の中でも発見があったんですよ。というか、ああいうプレーもどんどんやっていったほうがいいのかなって。

 自分の特徴はいいポジショニングで、相手の間で受けて、失わずにチャンスにつなげる、ということ。それも大事ですけど、自分のプレーの幅やスケールをもっともっと大きくしていくためには、ああいったプレーも必要だなと思ったし、判断次第では自分もできるんだという感覚もありました。そこが新たな発見でした。

(連続インタビュー第2回につづく


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