上写真=入団会見で熱い思いを語った加藤聖。定位置どりに意欲を示した(写真◎舩木渉)
ここで勝負する覚悟を持って来ました
「完全移籍で、ここで勝負するという覚悟を持って来ました」
V・ファーレン長崎から横浜F・マリノスへの完全移籍が決まったDF加藤聖が27日に新天地での入団会見に臨んだ。パリ五輪世代のU-22日本代表にもコンスタントに選ばれている将来有望な左サイドバックは、「自分の最大の武器である左足のキックを存分に発揮して、このチームに全てを捧げるつもりで戦いたい」と固い決意も語っている。
今月12日に行われた天皇杯3回戦のFC町田ゼルビア戦でDF小池裕太が右ひざ前十字靭帯断裂という重傷を負い、今季中の復帰は絶望的に。マリノスで左サイドバックを本職とする選手はDF永戸勝也のみとなり、9月に開幕するAFCチャンピオンズリーグやJリーグ終盤の戦いに向けて補強が必要になっていた。
そこで白羽の矢が立ったのが、長崎で出番を失っていた加藤だった。JFAアカデミー福島出身で、高卒1年目の2021シーズンからJ2で継続的に試合出場を重ねていた加藤だったが、今季は出番が激減。昨季途中から長崎の指揮を執るファビオ・カリーレ監督のもとで苦しい時期が続き、今季のJ2では5試合でわずか132分間のプレーにとどまっていた。
そんな中でマリノスからの移籍オファーが舞い込み、「迷うことなく、すぐに行くことを決めた」と加藤は明かす。
「試合に全く絡めていなかったですけど、やっぱり『J1に早く行きたい』という気持ちはずっとあった。J1は周りの選手のレベルも高いので、そこで揉まれて、さらに自分が成長できることも多くあると思います。
パリ五輪が来年にあって、僕のポジションのライバルの選手はみんなJ1で戦っている。実際、自分はJ2でも試合に出られていないという焦りがあったので、そういった部分も含めて迷わず決断しました」
同じくU-22代表でしのぎを削ってきたFC東京のDFバングーナガンデ佳史扶は、すでにA代表を経験済み。湘南ベルマーレのDF畑大雅もJ1で経験を積んでおり、左サイドバックはライバルが豊富だ。ゆえにJ2で出番が減った加藤は焦っていた。
もちろん、移籍したからといって試合に出られる保証はなく、当然ながらマリノスでの競争が決して簡単ではないのも理解している。永戸が不動の地位を築く左サイドバックのポジションで「その上をいくようなキックを見せていかないといけない」と、加藤は自らの武器で勝負を挑むつもりだ。
一方で課題も明確になっている。練習で紅白戦にも入れない時期があったという長崎では「守備での背後の対応」について指摘されることが多く、「守備が弱いのが目立っていた」と認める。それでも「守備の強度のところは練習で意識するようになって、そんなに簡単にはやられなくなった感覚がある」と成長を実感している。Jリーグ屈指の強度を誇るマリノスの中で磨きをかけられれば、さらに基準を上げられるだろう。
成長した先に加藤が見据えるのは世界だ。2024年のパリ五輪出場のみならず、日本代表や海外でのプレーも目標に掲げる。新たな挑戦を決めた背景には、マリノスが多くの選手が欧州への扉を開いたクラブであることも関係しているに違いない。ちょうど27日には藤田譲瑠チマのベルギー1部シント=トロイデンVV移籍が発表され、FW前田大然やDF岩田智輝のセルティック移籍など前例も数多くある。
「まずマリノスでタイトルを獲って、主力選手になることが目標ですけど、最終的な目標としては海外に行きたいという気持ちがあります。パリ五輪もありますし、そこで海外のチームのスカウトの目につく機会があると思う。代表活動もアピールの場になると思うので、そういうところでしっかりとした結果を残せるようにしたいと思います」
マリノスのチーム練習には27日から合流し、すでに「1つひとつのプレーの精度やスピードが全然違う」と大きな衝撃と刺激を受けた様子。「楽しみでしかないですし、もっと上手くなりたい。ここでたくさん成長したい」と、J1初挑戦のチャンスをつかんで希望に満ちあふれている。公式戦には8月6日、J1第22節・浦和レッズ戦から出場可能だ。
様々な球質のキックを精度高く蹴り分け、チャンスメイクで大きな力を発揮するパリ五輪世代の超攻撃的左サイドバックはJリーグ連覇を目指すマリノスの競争に新たな風を吹き込むことができるだろうか。
取材◎舩木渉