7月15日の明治安田生命J1リーグ第21節、「BIG神奈川ダービー」と銘打たれた横浜F・マリノスと川崎フロンターレの激戦は、アディショナルタイム4分に車屋紳太郎が決勝点を挙げて川崎Fが今季9勝目を挙げた。しびれるような展開の中で、横浜FMの強力攻撃陣を止めた一人が、高井幸大。U-20ワールドカップで悔しい思いをした18歳のセンターバックが、クールに止め続けた。

上写真=勝利をもぎ取って、高井幸大の笑顔も弾ける。無失点の立役者だ(写真◎J.LEAGUE)

■2023年7月15日 明治安田生命J1リーグ第21節(@日産スタ/観衆42,772人)
横浜FM 0-1 川崎F
得点:(川)車屋紳太郎

「装ってるだけですよ」

 横浜F・マリノスの攻撃陣は強烈だ。センターフォワードにアンデルソン・ロペスがそびえ立ち、そのすぐ後ろでマルコス・ジュニオールが虎視眈々と危険なパスを狙う。ウイングは右にヤン・マテウス、左にエウベルとスピードスターが並ぶ。前線に迫る4人のブラジル人を止めるのは難しい。

 そこに立ちはだかったのが、高井幸大。18歳のセンターバックが仲間とともに、横浜FMをノーゴールに封じ込めてみせた。

「危ないシーンもありましたけど、ゼロに抑えて勝ててよかったです」

 安堵と自信がちょうどよく混ざりあった笑顔がこぼれ落ちる。

 ここまで15得点を稼いで得点ランクトップに立つアンデルソン・ロペスを見張りつつ、ポストプレーで下がって受けるために動いたあとのスペースをケアする。その流れの中で「1対1になる場面もありましたけど、問題なく対応できたと思っています」と自然体だ。

 アカデミー育ちで将来を嘱望され、今季はすでに8節から5試合連続でフル出場。ここに来てまたも3試合フル出場で、存在感は増すばかりだ。欠場の間はU-20日本代表の一員としてU-20ワールドカップに臨んでいた。しかし、まさかのグループステージ敗退。高井は右サイドバックとして3試合すべてにフル出場したが、だからこそ敗退の責任を感じていた。

 そのことがあるいは、ピッチでの堂々たる振る舞いにもつながっているかもしれない。本人は「装ってるだけですよ」と笑うが、横浜FMのハイプレスにも動じずに強気にパスを送り、守っても冷静さを失うことはなく的確なポジショニングで封じ込んだ。

 81分には、左からのセンタリングに合わせて車屋紳太郎と自分の間に割って入り、ニアに突っ込んできたアンデルソン・ロペスについていって、最後の最後でスライディング、右足を伸ばした。「ちょっと遠かったですよね」とボールから距離があったことを反省するものの、背後から迫って体を投げ出したその迫力と、アンデルソン・ロペスがシュートをミスしたこととが、まったくの無関係だというわけでもないだろう。

 83分に佐々木旭と大南拓磨を投入したところで鬼木達監督は3バックにすると、高井はそのセンターを任された。信頼の証だ。

「しんくん(車屋紳太郎)も(大南)拓磨くんも攻撃がとても上手にできるので、そこを生かしながら、ジョアン(シミッチ)をうまく残しながらリスク管理はできたかなと思ってます」

 つまり、3バックのうち、自分以外の2人が持つ攻撃的な資質をピッチに投影させるために、自らが最終ラインをコントロールして、さらにはリスクヘッジも取っていたというわけだ。90+4分の劇的決勝ゴールは大南のアシストから車屋が生み出したものだが、これはまさに高井の言葉通り。もちろん、高井の指揮の下に実現したと言うには大げさかもしれないが、それでもチームが勝負に出た局面で最適解を見つけて実行するセンスを見せるには十分だった。

 このチームのセンターバックでは、谷口彰悟が移籍して、ジェジエウが負傷から復帰の途上にあるいま、何とも頼もしいティーンエイジャーが出現したものである。どこまで伸びていくのか、注目に値する存在だ。


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