上写真=決勝点をアシストした大南拓磨(左)と、決めた車屋紳太郎。勝利の抱擁だ(写真◎J.LEAGUE)
■2023年7月15日 明治安田生命J1リーグ第21節(@日産スタ/観衆42,772人)
横浜FM 0-1 川崎F
得点:(川)車屋紳太郎
「こういう試合もできると見せられた」
川崎フロンターレの劇的な決勝ゴールは、90+4分、右CKがクリアされたボールから右外で遠野大弥が受けたところから始まった。
「オレと(橘田)健人が入ったときに、鬼木(達)監督からは、2人で決めるんだぞって言われて、やってやるという気持ちになりました。試合前から、自信を持ってやれば絶対に勝てるとも言われてたので、自分の特徴を出せるようにピッチに入って、それが表現できたかなと思ってます」
60分にピッチに入った遠野与えられた時間は、30分以上。そこで表現できたと胸を張った特徴とは、瞬発力を効かせたドリブルだ。カットインで中央に入り、瀬川祐輔に優しく預けた。
「(瀬川に)当てて入って、自分で打とうかなと思ったんですけど、せがちゃん(瀬川)がトラップしたので打つのかなと」
瀬川はDFラインと駆け引きしながら、遠野が運んできたところで小さく3歩下がり、自分がボールを呼び込めるスペースを作り出していた。そこにおあつらえ向きのボールが入ってくる。
「最初はシュートを打とうと思ってトラップしたんですけど、ちょっと無理だと思って。そこで、ワイドの選手に渡して広げようかなと思って見たら、(大南)拓磨が走り出していて、気づいたらもう出していました」
受ける前に一度顔を上げ、トラップしてもう一度、目線を上げたら、右横を軽やかに走り抜ける大南がいた。そこに工夫を仕込んだパスを通す。
「目が合ったのがすべてかな。もう走っていたし、絶対みんなの逆を取れると思って。でも、普通に出してたら当たると思ったので、確か相手2人の内側を通したと思います。角度をつけて内側に通せればいけるかなと」
腰をひねって鋭角に送り、きれいにラインを割るパスを送り込んだ。
そのパスに「よく追いついたなと思います」と瀬川が感謝した大南も「目が合った」と証言する。
「すごくいいボールで、中を見る余裕もありましたし、落ち着いてできました」
CKの流れからとはいえ、3バックに変更するために投入されたDFが、タイミングよく裏抜けする姿は鮮やかだった。
「相手の足が止まっているという感じがあって、そこで走るのは僕の特徴でもあると思うので、走っていきました。ただ、スペースは空いてはいても(瀬川が)出すのは難しいかなと思ったんです。それでも出してくれましたね」
感謝しながら、今度は中央に折り返す番。
「コースが見えて、誰がいるかまでは分からなかったけど、ちらっと白いユニフォームも見えました。シュートと迷ったんですけど、横に流せば触ってくれると思って流しました」
中央になだれ込んできたのが車屋紳太郎だったことは驚きではあったが、「コーナーキックの2次攻撃だったから、しんくん(車屋)でもおかしくないなと思ってました。でも、90分を戦って守って失点をゼロで抑えている中で、 あそこに詰めて来てくれたのはさすがだな」と感嘆する。
そんなさすがの男、車屋は「本当はリスクバックで戻らなきゃいけない役割なんだけど」と小さな反省ものぞかせる。
「でも、今日は勝たないと優勝は厳しいと思っていて、最後に(大南)拓磨が上げてくると思って、信じて走りました」
相手2人が体を投げ出してくるより少し先にボールに触って、自分がネットに転がり込んだ。目の前に川崎Fのサポーターが陣取るゴール裏が、大きく大きく揺れる決勝ゴール。
「泥臭いゴールでしたけど、最後にああいうふうにゴールを決めて勝利することができてうれしいです」
いつもはクールに語る背番号7も、このときばかりは笑顔を隠さない。
「自分自身、こういうのは初めてなので、どうリアクションしていいか分からずに、でも本当に良かった」
首位を相手に負ければ、その姿は遠のくばかり。この試合はどうしても負けられない、いや、負けてはいけない一戦だった。
「1試合を通して厳しい試合でしたし、なかなかボールを奪えずに押し込まれる時間が長くて、でも最後に押し込んで取ることができて、こういう試合もできると見せられたと思います」
首位への勝利、というだけではなく、這いつくばってでも勝ち点3を取りにいって、それを実現させる「戦い」が自分たちにはできる。そんな野生味をサポーターと、これから対戦する相手に誇示する一撃なのだった。