上写真=横浜FC戦に途中出場し、J1デビューを果たした浦和の髙橋利樹(写真◎J .LEAGUE)
役目を果たせなかったことが悔しい
0-0で迎えた77分、ピッチサイドに立った浦和の髙橋利樹は、FWとして点を取ることしか考えていなかった。
「0-0の状況で、僕を投入した意図はゴールです。その役目を果たせなかったことは、悔しいです」
大卒4年目にして念願のJ1デビューを果たしたものの、まったく意識はしていなかったという。持ち味の走力を生かし、足を止めることなくプレスへ。サイドで味方がボールを持てば、クロスを呼び込むために何度も動き直した。そして、88分には酒井宏樹からの右クロスにダイビングヘッド。
「宏樹さんには練習のときから、ニアサイドに飛び込んで来てくれ、と言われていたので」
得点にこそつながらなかったものの、ゴールへの執念が垣間見えた。シーズン前に掲げた目標は二ケタ得点。3月に右足ハムストリングを負傷した影響などもあり、ここまで思うように試合に絡めていなかったが、ようやく調子が上がってきた。天皇杯2回戦の関西大学戦(○1-0)に続き、公式戦では2試合連続の途中出場。遅れてきたストライカーは、いま意欲にあふれている。
昨季はJ2のロアッソ熊本でキャリアハイの14ゴール。得意のワンタッチゴールだけではなく、裏に抜け出す形、ドリブルで持ち込むパターンなど得点バリエーションを増やして、自信を深めた。本領を発揮するのは、ここからである。
「いまの浦和は一発で決められるフォワードがいれば、もっと上に行けるはずです。途中出場の選手が点を入れないと、優勝争いはできないと思っています。練習からもっと要求していきたい」
移籍1年目ながらもエンブレムの重みは、十分に理解している。物心ついた頃から浦和のユニホームを来て、埼玉スタジアムに通っていたほどだ。声を出して、応援歌を歌ったこともある。それでも、浦和のアカデミーとは縁がなく、埼玉栄高校から国士舘大へ。プロキャリアはJ3の熊本でスタート。コツコツとキャリアを積み重ねて、自力でたどりついた心のクラブである。憧れのユニホームに袖を通せば、自然とパワーもみなぎってくる。
「もっと試合に出場できるように練習からアピールしていきます」
浦和の得点力不足を解消するのは、熱いハートを持った苦労人かもしれない。
取材・文◎杉園昌之