上写真=同点ゴールを決め、逆転ゴールの起点にもなった酒井宏樹(写真◎Getty Images)
1−1になれば何かが起きる
機を見て、一気に攻め上がるスプリントは目を見張った。1点を追う72分、浦和の酒井宏樹は、オフサイドラインを気にしながら、裏のスペースに飛び出すタイミングをうかがっていたのだ。右サイドで大久保智明がボールを持ったときには、伊藤敦樹を経由し、最後は自分のところにパスが出てくるイメージしていたという。
「トモ(大久保)、アツキ(伊藤)と良い信頼関係ができています。あのようなトライアングルをもっとつくっていきたい。シュートは狙いどおりでした。入ってよかったと思います」
相手GK大迫敬介のポジションを見ながら、右足のインサイドキックできれいにゴール左隅へ流し込んだ。3月18日のアルビレックス新潟戦以来となる、今季2点目。
値千金の同点弾が決まると、会場の空気はガラリと変わった。1週間前にも埼玉スタジアムでは、ルヴァンカップで川崎フロンターレに逆転勝ちを収めたばかり(○2-1)。
「1ー1になると、このスタジアムは何かが起きる雰囲気になります。結果を残せば、ファン・サポーターもパワーをくれます。僕らはここで絶対に負けてはいけないので」
そして、後半アディショナルタイム。酒井はまたも大きな仕事をこなす。左のファーサイドに走り込んだブライアン・リンセンにピンポイントでクロスを合わせ、勝ち越し点のきっかけをつくってみせた。
「サイドバックらしい仕事ができたと思います。相手の守備陣は、中央の(興梠)慎三さんに釣られますからね。あの場面では、フリーになっていた(奥の)ブライアンを冷静に見ることができました。そのあともうまく折り返してくれて、最後はアツキが決めてくれました」
AFCチャンピオンズリーグを制覇し、勢いに乗る浦和は国内リーグでも4位に浮上。上位3チームよりも1試合消化数が少なく、さらに上へ行く可能性もある。土壇場で見せた底力は、強さの証明と言ってもいい。たとえ、先制されても粘って、試合をひっくり返す力が付いてきた。
「崩れないのは大きいです。個の力もあり、チーム内の規律もあります。僕としても守りやすい。これを続けていくことが大事。相手からすれば、手強いチームになってきたと思います」
ただ、酒井の理想はもっと高い。無失点に抑え、複数得点で勝つこと。2006年以来のリーグ制覇に向けて、精進していくことを誓っていた。
取材◎杉園昌之