2022年にアルベル・プッチ・オルトネダ監督を迎えて「新しい冒険」を始めたFC東京。最後は川崎フロンターレに2-3で敗れたが、最終順位は6位と昨季超え。そんな1年の象徴的存在といえるのが、渡邊凌磨だろう。しっかりとした技術と戦術眼でチームを支えた。

上写真=渡邊凌磨は2022年のJ1で30試合、1948分でプレーして、チームで2番目に多い6得点(写真◎小山真司)

■2022年11月5日 J1リーグ第34節(味スタ/34,820人)
FC東京 2-3 川崎F
得点者:(F)アダイウトン2
    (川)脇坂泰斗、マルシーニョ、オウンゴール

「折り返したというところしか覚えていない」

 2022年、FC東京はアルベル・プッチ・オルトネダを監督に迎え、新しい冒険を始めた。ボールを愛する、という難しい目標に挑んだこの1年、その戦いの日々を象徴したのは、渡邊凌磨だったのではないか。

 最終節の川崎フロンターレ戦でも、それが示された。右のワイドでスタートし、長友佑都が66分にピッチをあとにしたことで、左サイドバックに回って80分に交代するまでプレーした。「楽しかったですよ」が第一声だ。スコア、時間帯、相手との力関係など、チームの戦い方に応じて複数のポジションと役割で柔軟にプレーできることが、アルベル監督の新しい思考を浸透させる手助けをしてきた。

 この日は両チーム合わせて生まれた5つのゴールのうち、3つに絡んでいる。一つは粘り強い守備から攻撃に転じたワンシーン、一つは見事なアシスト、そしてオウンゴール。

 19分に先制されたものの、29分にGKチョン・ソンリョンが退場して、こちらが一人多くなった。「正直なところ、11人対11人でやりたかった」と残念がったが、そこから押し込んだ勢いのまま、後半開始早々の47分に同点に追いついた。そのきっかけが、渡邊。

 左CKが流れたボールを右サイドで引き受けて、そのままドリブルへ。3回切り返して縦に抜けたところで一度はマルシーニョに奪われたが、執念で奪い返したことでもう一度攻撃に転じることができた。塚川孝輝に戻し、中村帆高とパス交換した塚川が入れたクロスがこぼれてアダイウトンが蹴り込んだ。

 61分に勝ち越されたが、74分にもう一度追いついた。右に展開する間に左サイドのスペースへと走り出すと、紺野和也の左足から送られたクロスに走り込み、空中でそのまま左足のインサイドにボールを当てて中央へ、これをアダイウトンがヘッドでねじ込んだのだ。

「アダ(アダイウトン)を目がけて折り返したというところしか覚えていないんですけど、決めてくれてよかったですね」

 左サイドバックに回ったあとに、攻撃参加のセンスを生かして決めたアシストである。

「左サイドバックをやるときには、なるべく大外で待つ意識をしています。コンちゃん(紺野)や(中村)帆高からのボールでチャンスができればと思っていました」

 ていねいなラストパスは、ミスのおかげだった。

「この前に一度、タマ(三田啓貴)から来たボールに合わなかったのがあったんですけど、あれでスペースへの入り方とかボールへの距離がつかめた感じがしました」

 ゴールからさかのぼること5分。右サイドの三田から左足で同じような軌道のクロスが飛んできて、左足のパスはしかし弱々しくゴールラインを割った。このミスを即座に生かした「修正力のアシスト」だったというわけだ。

 ところが、試練も待っていた。同点にした1分後にオウンゴールを献上。右サイドからのクロスに対して中央に絞ってカバーに戻ったのだが、ボールがヒザのあたりに当たってしまい、そのまま転がり込んだ。これが川崎Fの勝利を決めるゴールになった。

「あそこまで戻っていたところは自分の良さでもあるので、あれを経験値にしてミスをなくしていければと。そこは正直なんとも思っていないんですけど、あそこは経験だと思うので一つ学べたと思います」

 ポジティブに学び、糧にすることは、この1年で繰り返してきた。しっかりとした技術とピッチを見通す目を持ったMFだが、序盤はサイドバックでプレーした。インサイドハーフでもワイドのポジションでもプレーした。そのたびに気づきを得て、自分のプレーとチームの戦いを最適化していった。気づけば、30試合、1948分でプレーして、6得点はアダイウトンの12に次いでチームで2番目に多い。

 2月18日の開幕戦も川崎Fが相手だった。右サイドバックで先発した。約9カ月後の最終戦も、同じ川崎Fを相手に右のワイドと左サイドバックでプレーして、結果も残した。

「初戦は右サイドバックで出たからちょっと歯がゆいスタートでしたけど、最後はもっともっとできたかな。来年につながるシーズンだったと思います」

「川崎とは同じようなサッカースタイルだからこそ、敵が来る場所や方向、どうやって寄せてくるかは理解できて、ボールを受けやすかった。もっともっとチャンスにつなげられればと思っています」

 できることが広がり、質が向上して、新しい冒険の最初の1年が終わった。〈高い技術を持つ選手が、複数のポジションで、複数の役割で、チームの戦術の幅を広げる〉という稀有なキャラクターにぴたりとはまった渡邊は、2年目の冒険にどんな姿を見せるだろうか。

取材◎平澤大輔 写真◎小山真司


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