首位の横浜F・マリノスに残り5試合で勝ち点5差という場所から、逆転で3連覇を狙う川崎フロンターレ。その将である鬼木達監督は、魅力的な攻撃サッカーと勝負への執着心の両方を表現している。その源流はどこにあるのか。ロングインタビューでその一端を探っていく。

育てることと勝つことは別ではない

画像: 麻生グラウンドの日常が、常勝チームを作り上げている(写真◎サッカーマガジン)

麻生グラウンドの日常が、常勝チームを作り上げている(写真◎サッカーマガジン)

――勝つことだけではなくて「育てる」ことも、クラブからのミッションとして提示されているとおっしゃっていました。この両立は本当に難しいし、実現した監督は本当に少ないと思うのですが、その両輪が回っている理由はどこにあるのでしょう。

鬼木監督 いや、これは本当に難しいです。毎年、大変だなという思いと、でも楽しみもありますね。もちろん歯がゆさも。育てるには時間がかかりますし、即効性はありません。試合に使ったとしても、いいときばかりではなく落ちてくるときは絶対にありますし。フロンターレではいまは優勝を求められていて、そうでなければ育てることにある程度の軸足を置くこともあるかもしれないですけど、優勝を目指す中で人を育てていくことが必要です。

 新しい芽が出てくるのは指導者にとっての大きな喜びです。同時に、そのバランスが難しいですよね。勝つことも求められるし、そこは自分も度外視して考えるタイプではないですから。才能がある若手はいますので、もっと試合に絡んでくるために強烈なアピールをしてほしいですね。

 ただうちは逆に、ベテランのギラギラしている感じが強みでもあります。彼らがいるからいまがあるわけで、かといって若手が負けていても困りますけどね。だから自分の中でも答えは出ません。勝ちたいし、育てたい。時期によってもウエイトが違ってきますし、このタイミングまでは我慢するけれど、ここから先はもう…、という折り合いは自分の中でつけています。

 ただ、すごい選手を獲得して勝てるかといえばサッカーはそうとは限らないですし、目には見えない伸びしろの大きさによってチームのパワーは決まってくるところもある、という実感もあるんです。時折、想像を超える成長を見せる選手もいるので、それも楽しみですしね。

――監督やクラブによっては、育成部門を別の誰かに任せるケースもあります。しかし、鬼木監督の場合はつまり、「育てる」ことは「勝つ」ことにつながっていくから、その両方から目を離さないということなんですね。

鬼木監督 まさにそこですね。育てることと勝つことは別ではなくて、すべてがチームの力になっていくわけです。ただし、トレーニングの基準を一番上に合わせる必要があって、育成の部分の割合が多くなってくると質が下がってくるので、バランスは大事です。そこは、うちではアキ(家長昭博)や(小林)悠、(大島)僚太、(谷口)彰悟、(山根)視来、(脇坂)泰斗といった選手が基準を引っ張ってくれて、助かっていますけど。

――J1を過去最多の4度も制し、ルヴァンカップも天皇杯も勝ち取っています。Jリーグの歴史に残る稀代の名将としての地位を確立していると思うのですが、そんなご自身の未来の姿をどのように考えているのでしょうか。

鬼木監督 やっぱり、これまで言ってきたことですよね。自分たちが面白いと思っていて、見ている人も面白いと思ってくれるようなサッカー。勝つサッカーと面白いサッカーがつながっていること。つなげていくこと。そして、Jリーグの魅力を高めていかなければいけない、という思いや危機感もありますから。育てること、勝つこと、魅力あること、それをすべて成し遂げるのはやっぱり難しいんですけど、でも自分の中ではすべてがつながっているので、実現できると思うんです。

――今日は鬼木監督の内面にフォーカスしたお話となりましたが、残り5試合で首位の横浜F・マリノスと勝ち点5差という優勝争いの真っただ中です。

鬼木監督 はい、そこはいま、何よりも頑張るところですから、しっかりやっていきますよ!

取材・構成◎平澤大輔

Profile◎おにき・とおる/1974年4月20日生まれ、千葉県船橋市出身。市立船橋高から1993年に鹿島アントラーズに加わり、その後、川崎フロンターレに移ってボランチとしてチームを支えてきた。2006年限りで引退して指導者の道へ。育成年代を指導し、10年からトップチームのコーチを経て17年に川崎Fの監督に就任。その年に悲願のJ1優勝を成し遂げるなど、毎年必ずタイトルを獲得し、勝つことと楽しませることを両立してきた。J1で4度の優勝はリーグ史上最多の偉業だ。


This article is a sponsored article by
''.