上写真=佐々木旭は「走る」ことに意欲的に取り組んできたという(写真◎J.LEAGUE)
「筋トレを普段より多く」
その瞬間に選んだプレーは、「縦へ!」だった。
川崎フロンターレの左サイドバック、佐々木旭が7試合ぶりに復帰した9月10日のJ1第29節サンフレッチェ広島戦、78分のことだ。ジョアン・シミッチとワンツーで左外を抜けると、もう一つ縦へ深く持ち出してストップ、相手の足も止めた次の瞬間に、ボックス内のマルシーニョに預けた。シュートはGK大迫敬介に弾かれたが、逆から詰めてきた家長昭博が蹴り込んで、仕上げの4点目となった。
「ジョアンとのワンツーでもらったとき、いままでなら縦に行かずにトラップして止まって後ろを向いて、というプレーになっていました。でも、オニさん(鬼木達監督)にもコーチ陣の皆さんにも、前に行けよ、って言われていて、あそこで一つ持ち出せたのは自分でも成長を感じました」
今季から加わったルーキーだが、「川崎Fらしさ」にとらわれるあまり、確実にパスをつなぐことに意識を引っ張られていたという。その代わりに影を潜めていた大胆さを、見事に取り戻すことができた。
34分にはマルシーニョのスルーパスで左奥に抜けてマイナスに送り、家長の先制ゴールをアシストしている。4-0の圧勝劇で「最初」と「最後」を演出したわけだ。この活躍には、家長も「頼もしかった。点を取った自分よりも良かった。今日は称えてあげてください」と絶賛だった。
佐々木が試合に出られなかったこの2カ月、練習では「対戦相手」としてその家長のマークにつくことが多かったという。そこで手を抜かずに食らいついたことで、復活の糸口をつかんだ。
「アキさんをマークして、ボールを取れたシーンは数回しかないですけど、マッチアップしてみてアキさんから取るにはどうしたらいいか考えて、フィジカルを鍛えなければいけないと感じました。アキさんと対峙して得るものは本当に多かった」
そこで「試合に出られなかった期間で筋トレを普段より多く取り入れました」とパワーアップを図った。ただ鍛えるだけではなく、自らの強みをさらに伸ばすにはどうすればいいのか、の思考の末に、下半身の強化には特に時間を割いたという。
「試合に出られない間は、等々力のスタンドから見ていて、自分がピッチに入ったときにどうプラスの材料をもたらせるかを考える期間になりました。マイナスな時間ではなくて学ぶことがたくさんあって、プラスの時間だったと思います」
気づいたのは、走ること。
「走ることは自分の特長でもありますし、いまのフロンターレにないところだと思って、それが広島戦で出せました」
11.140キロの走行距離は、この日のチームで一番だった。
もう一つ「走る」シーンがあった。58分に左サイドでジョアン・シミッチから引き出すと、力強くカットインして切り込んでいって、ペナルティーエリア手前から思いきりシュートを放った。ところがこれは右足のアウトにかかって大きく右にカーブを描いてそれていき、右のタッチラインを割った。思わず苦笑いのシュートミス。
ところがこのスローインをシミッチが奪って家長、知念慶とつなぎ、橘田健人、マルシーニョと渡って最後は脇坂泰斗が蹴り込んだのだ。2-0と試合を優位に進める59分の追加点は、佐々木の大胆な突破がなければ生まれなかったことになる。
「あれもいままでならドリブルで行っていなくて、バックパスか横パスの選択になっていたと思います。実際の試合で仕掛けてシュートまでいけたのはよかったです」
これもまた、成長の証。最後にミスしたシュートをしっかりと蹴ることができれば、完璧だ。
「そうですね。今度はしっかり決めたいと思います!」