上写真=塚川孝輝がJ1初ゴールと2点目を連続で決めて、勝ち点1をもぎ取った(写真◎J.LEAGUE)
■2022年9月3日 J1リーグ第28節(味スタ/29,034人)
FC東京 2-2 横浜FM
得点者:(F)塚川孝輝2
(横)岩田智輝、仲川輝人
「少しは恩返しできたかな」
FC東京の塚川孝輝はうれしいはずの「今季初」「移籍後初」「J1初」のゴールに、喜びは控えめだった。
「まだ負けていましたから、喜んでいる暇はありませんでした。カッコつけたんです」
持ち前のユーモアで取り囲む報道陣を笑わせたが、確かにまだそんな暇はなかっただろう。前半に2点を先行されていて、迎えた53分、左からバングーナガンデ佳史扶が送ったFKがクリアされて右にこぼれてきたところで、ワントラップから左足を振ってニアサイドを抜き、反撃の1点を決めてみせた。
「思いきり振りきりました。ゴール前に人がたくさんいて、打てば何が起きると思って足を振って、いいところにボールが行ってよかったです」
逆足でのフィニッシュだったから「適当に蹴った」とまた笑わせるが、しっかりとインパクトしたボールは強く鋭かった。
ようやく喜びを爆発させたのは、10分後だ。右からの松木玖生のCKをファーサイドで高々と舞い上がってヘッドできっちりたたく。相手の伸ばした足に当たったものの勢いは衰えず、ゴール右に飛び込んだ。ついに同点だ。
松木によれば、練習でもCKを担当することはなく「ほぼぶっつけ本番だった」という。だが、ベンチスタートだった松木は57分に登場するまでに相手を観察し、「ファーが空いていて、ニアで勝負しようと話してはいたんですけど、ファーでキーパーが出られない位置に蹴ったら入るんじゃないかなと思って」この前にも2度、CKをファーに送っている。この3度目のキックでも大きく飛ばしたところに、塚川が飛び込んだ。
だから塚川は「玖生さんのおかげです」とおどけた。これを受けて松木も「間違いないです」とニヤリ。
塚川はこのゴールでようやく喜びを爆発させた。
「2点目は同点ゴールということで、チームメートも喜んでくれたので率直にうれしかったです」
この夏から仲間として迎え入れてくれた青赤の選手たちが笑顔で待っているところへと駆け寄って飛び込み、遠慮なく喜びを表現した。一つだけ後悔があるとすれば、同じように狂喜乱舞する目の前のサポーターたちのことを「チームメートばかり見ていて、あまり見ることができなかった」ことだ。だから「次はゴールを決めて勝って喜びたい」と新たな意欲が生まれた。
松本山雅から移った川崎フロンターレでの1年半はなかなか出番をつかめず、この夏にFC東京での新しい挑戦を決めて、4試合目。
「でも、僕のサッカー人生を変えてくれた1年半で、たくさんの思い出が詰まっていて、それがなければいまの僕はいないし、ここに立ってもいません」
だから、松木のキックに高々と舞い上がったあの一瞬を「1年半、しゃがんでいたので、その分のジャンプです」と特別な思いを詩的に表現した。
この日の相手、横浜FMは古巣の川崎Fが首位争いを演じるライバル。
「もうチームは違うけれど、少しでも貢献できたらという思いがありました。結果は引き分けだったけれど、少しは恩返しできたかな」
これが本当の「恩返し弾」だ。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE