上写真=桜がきれいな小平グラウンドで、森重真人は横浜FM戦に向けて調整した(写真提供◎FC東京)
「やりたいことからほど遠い」
FC東京はコロナ禍による活動停止などを乗り越えて3月を終え、J1リーグ3勝1敗、ルヴァンカップ1勝1分け1敗。起用できる選手が限られたり、新しいスタイルの構築の端緒についたばかりだという難しさがありながら、計7戦4勝というのは悪くはない数字ではないだろうか。
ただ、キャプテンの森重真人としては、「結果が出ているのは最低限のところ」と慎重な姿勢を崩さない。
「自分たちのやりたいこと、イメージしているところとはまだまだほど遠いと感じています。もっともっと自分たちのいい時間帯だったり意図してできていることを増やしていかなければいけないと思っています」
その一つが「プレースピード」だ。直近のルヴァンカップの湘南ベルマーレ戦では、アルベル監督も強調していた部分。森重も「自分たちがしっかり意図的に動かしながら試合を進めていくところでは、精度の問題や判断とプレーのスピードがまだまだ」と感じている。
「湘南戦で言えば、ボールを保持できるけれどそれに満足して、保持することにフォーカスしすぎると試合が前に進まないんです。点を取るためにやっているわけで、右から左へ、左から右へのパスのスピードを上げないと、相手のスライドが間に合ってしまうし、相手にとって怖くないですから。素早くボールを逆サイドに持っていって、揺さぶりながら相手のスキを突かなければいけない。ただ後ろで保持しているだけで満足しているところがあります」
ボール保持はゴールからの逆算。その絶対原則に向ける意識が薄れてしまうと、目的=ゴールと手段=保持がいつのまにか混濁してしまう。このスタイルによくある落とし穴を、プレースピードを高めることで避ける必要があるのだ。
その点では、森重と木本恭生がセンターバックで組むことが多いのはメリットだ。ともに高い技術があってパスの確実性が高い。
「もともとヤス(木本)も足元がある選手なので、いままでの試合を見てもボールを前につけられていて、それを両センターバックからできれば相手も的を絞れないと思います。センターバックが起点になって、中盤で前を向いたときにどうアクションするかのバリエーションを持つことで相手は混乱します」
アルベル監督はビルドアップにおいて、前を向いてプレーできる選手にシンプルにボールを預けることを優先事項に挙げている。常に前を向いた状態のセンターバックとしては、自らのパスによって、より相手ゴールに近い別の選手に前を向いてプレーさせる工夫が必要になる。
「後ろからは一つ先、二つ先を読みながら組み立てないといけないと感じています。そのアイディアと中盤の選手やサイドの選手との意志のすり合わせは、こういうときはこういうパスでいこう、とか、さっきのパスはこういう意図があったんだ、と一つずつ伝えながらやることで、オートマチックにボールがスムーズに流れていくと思います。いまはまだ、ちょっとノッキングすることが多いけれど、いろんなミスをして経験することでスムーズに動かして前に運べるようになると思っています」
ミスという経験を重ねながらも、結果が出ている現状は好ましい。勝って改善できる理想のサイクルに入りつつあるからだ。ここからは、横浜F・マリノス、ヴィッセル神戸、浦和レッズと、AFCチャンピオンズリーグを戦う実力派3チームとの連戦だ。森重も「力のあるチームに対して、自分たちがどこまでできるのかは見てみたい」と、力試しのチャンスを楽しみに待ち構えている。