上写真=マルセロ・ヒアン(右)の2ゴールでなんとかドローに持ち込んだFC東京。4-4-2システムの効果は?(写真◎Getty Images)
■2025年6月14日 J1第20節(観衆:24,572人@味スタ)
FC東京 2-2 C大阪
得点:(F)マルセロ・ヒアン2
(C)ラファエル・ハットン、田中駿汰

「ベースを見せることができた」
松橋力蔵監督は就任した今季、FC東京に3-4-2-1のシステムを授けた。「選手の特徴を生かせる」という狙いからだが、6月の中断期間までで降格圏の18位と苦しんだ。
中断明けのセレッソ大阪戦で、松橋監督は変化を決断した。選手に仕込んだのは4-4-2のフォーメーション。結果は2-2のドローだった。2分にマルセロ・ヒアンが決めて幸先よく先制し、逆転されて嫌なムードが漂ったが、81分にまたもマルセロ・ヒアンが決めて追いつく意地を見せる展開。
松橋監督の狙いは、こうだ。
「なかなか勝ちに結びつかないゲームが続き、フォーメーションを変えることはずっと頭にはありつつも、結果が出てない中でも積み上げている部分はあったので、変えるタイミングはなかなか難しかった。この2週間で整理して今日トライしました。
「選手の良さをさらにいい方向に進められる意味で、フォーメーションを変えました。評価としては、やはりリハーサルで準備していることがすんなり出たかというと、途中でペースダウンしてからボールを握る時間はほぼなかったという部分では、表現はできなかったかなと」
内容に関する自己評価は生ぬるくはなかったが、「全部がまったく出なかったわけではない」とも振り返る。
「序盤の守備の部分では良さが出てリードを奪うこともできたし、取り切れなかったけれど、追加点も奪えるかというところまではいきました。早く攻めるところも良さで、そこはしっかり出せました。その強みを失わず、さらに厚みを持った攻撃ができるようにしていきたい」
今後につなげたいのは、先制ゴールのシーンだ。2分、左サイドの高い位置で遠藤渓太と高宇洋がルーカス・フェルナンデスを挟み込み、ミスを誘って高がすかさずゴール前に出ていったマルセロ・ヒアンへ。落ち着いてゴール右に流し込んだ。
アシストした高が、その効果に力強くうなずく。
「渓太くんと一緒にいい守備から攻撃につなげられて、あとはヒアンがよく決めてくれた。ファーストディフェンダーの強度を上げていくところで、それがうまく出せたかなと。4-4-2に変えてやらなきゃいけないことがはっきりして、ベースを見せることができたと思います」
ショートカウンターで仕留めたこのゴールが、4-4-2の効果をはっきりと表していた。
ただ、失点癖は治っていなかった。
安い2失点
中断前は3試合続けて3失点して3連敗と屈辱的だった。このC大阪戦で連敗は止めたものの、2失点だ。
J1通算500試合出場を達成した森重真人が「簡単に2失点してしまったことは、僕自身、ディフェンダーにとっては安かった」と自嘲気味に表現する2失点。自らに反省の刃を厳しく突きつける。
特に42分の最初の失点は忌々しい。香川真司に鮮やかなロングパス一本でど真ん中をぱっくりと割られ、ラファエル・ハットンに抜け出されて決められた。
この直前、左サイドからテンポよく攻めていた。先制ゴールのシーンに似ていて、遠藤と橋本拳人が高い位置で挟み込んで強奪し、その流れから遠藤が左へ抜け出してセンタリング。しかし、相手のクリアがこぼれたとき、収めた香川はまったくのフリーだった。しかも、誰もアタックにいかずに悠々とパスを許した。攻めている中でのリスク管理が厳しく問われるシーンだ。
「僕はもうゴール前に入っていたので、どうしようもなかったんですけど、練習の紅白戦でああいう形が1回あったんです」
そう明かしたのは高だ。
「だからしっかりと対応しなければいけないし、あそこでいかに人にタイトにつけるか。攻めているときこそしっかりと守備の準備をしなければいけないですし、そこのアラートさはチーム全体で、全員がもっと雰囲気を出してやっていかないといけない」
奪って一気に攻めるショートカウンターは、関与する選手が前に前にと突き進んで迫力を出すが、完遂できなければそのトレードオフとしてカウンターのリスクを正面から受ける羽目になる。ほかの選手も追走して高い位置にポジションを取るべきところで、それを怠ればスペースを空け渡してクリアを拾われる、という典型的な負の側面を見せつけられることになった。
「もちろんその状況は当然想定している」と松橋監督。「ただ」と続ける。
「その局面だけを見れば、守備的なプレーの選択、判断がどうだったかということはあるかもしれませんけど。プレスがよく働いてる部分もあったので、反対側も常に準備しておかないと。あとはバランスです」
警戒するばかりでは誰の足も前に出ていかないし、逆に闇雲に誰も彼もが突き進んでもひっくり返されるだけ。4-4-2にしたことによってサイドの高いエリアで相手を封じ込め、守備から攻撃のスムーズさを発揮した直後だっただけに、そのジレンマがなんとももどかしい。松橋監督の言うバランス、つまりは微調整が必要になってくる。
はっきり
攻撃のメリットと守備のデメリットが現れた2つのシーンを振り返ったが、全般的には選手たちは前向きな印象を手にしていた。
森重はこの90分で「思い出すこと」の実感を抱いた。
「みんな手応えは持ったと思いますし、いいシーンはたくさん出ていました。それと同じぐらい、まだまだ連係不足や行き詰まるところもあったけれど、1試合やってみて思い出す作業もできて、なんとなくこんな感じだったなと分かったので、次からは完成度の高いプレーを見せられるんじゃないかな」
高は「はっきりしたこと」をメリットに挙げた。
「このシステムでは人に行くところや、コンパクトというキーワードを使いながら守備を準備してきて、そこはうまくいきました。一人ひとりの強度や責任感が顕著に出るシステムだと思います。それぞれの役割がはっきりしましたし、目の前の相手にどれだけ勝っていけるかではっきりしやすいので、個人個人が磨いていければ」
よりポジティブな感覚を得たのは、攻撃陣かもしれない。
60分に登場した俵積田晃太が、その一人。2試合に出場した日本代表帰りで、ボールが収まるたびに沸き起こる大歓声は「聞こえなかった」というほど集中していた。
「サイドの方が自分の長所は出せると思います。でも、中でも自分のプレーを出せるように成長していけたらなと思います」
ここまではシャドーとしてよりゴールに近いエリアでプレーしてきたが、この日、左サイドハーフとしてワイドに立って仕掛けた得意のドリブルは、昨年何度もスタジアムを沸かせてきた最大にして最強の武器。しかも、日本代表の森保一監督から縦突破で相手にもっと恐怖を植え付けられると諭されたことが大きな刺激になって、この日も縦へ縦へと躍るように駆け抜けた。
そして、もう一人が野澤零温。今季は出番を得ながらも納得のいく結果を残せていなかったが、75分に右サイドハーフとして登場すると、81分に右からマルセロ・ヒアンに素早く送って同点ゴールをアシストしてみせた。そのほかにも、度重なるチャンスメークは鮮烈だった。
その躍動を松橋監督も「スピードや背後を取るタイミング、冷静な判断は彼の良さ」と評価した。それを聞いた野澤はニヤニヤを隠せずに「うれしいです!」。
フォーメーションの違いによって「やることは変わらない」と言うのだが、3バックのウイングバックではなく、4バックのサイドハーフであることのメリットは感じていた。
「より攻撃的になれるのは確かですね。元々やっていたポジションですし、やりやすい気持ちはもちろんあります。ただ、3バックの応用というか、ベースができてきたからこそのいまだと思います」
その冷静な本音は、松橋監督の言う「3バックで積み上げてきたこと」とシンクロする。これまでがまったくの無駄だったわけではない。
横浜FCが川崎フロンターレに敗れたため、これで一つ順位を上げて17位となり、ひとまず降格圏を脱出した。ひと息つくにはまだ早いが、何かが動き始めたのは確かだ。ドイツから帰ってきた室屋成がこの復帰初戦で好パフォーマンスを見せ、GKキム・スンギュ、DFアレクサンダー・ショルツ、FW長倉幹樹も加わり、4-4-2と3-4-2-1を両手に携えて、逆襲を始める。