上写真=塚川孝輝は慣れない左サイドバックのタスクをアンカーとして消化した(写真◎J.LEAGUE)
■2022年3月2日 J1リーグ第10節(等々力/14,696人)
川崎F 2-1 浦和
得点者:(川)家長昭博、山根視来
(浦)岩波拓也
「ハーフタイムに自分に問いかけながら」
「塚川選手が球際で勝って、速くていいボールをくれました。速すぎるわけでもなく、柴戸選手の動きも見えるパスでした」
脇坂泰斗は64分、ドリブルで突き進んで山根視来に預けて逆転ゴールをアシストしたシーンについて、まずボールを届けてくれた塚川孝輝を称えた。最高の褒め言葉ではないだろうか。
26分、左サイドバックの登里享平が足を痛めて自ら座り込み、プレーが続行できなくなった。代わって入ったのが塚川。
「左サイドバックは練習でもやったことなかったので、ちょっと戸惑いがすごくあって」
しかも、33分に失点した場面に関わった。塚川が「先に触れると思って頭から突っ込んでいった」が、勢い余って江坂任を倒してファウル、このFKから決められた。
「ファウルからの失点だったので、メンタル的にやばいなと思ってしまった自分がいて、そこは自分の反省すべきところです」
アクシデントによる突然の交代出場、慣れないポジション、先制点を許すきっかけのファウル。スタートは苦しいものだった。重要だったのは、ハーフタイムのふるまいだった。
「ハーフタイムに自分に問いかけながら、メンタル的にも後半はやるしかないという気持ちにできたので、振り切れました」
それが、逆転ゴールに連なるあのシーンへとつながっていく。脇坂が称賛したパスの質もそうだが、そのボールは左サイドで自らのパワーをぶつけて酒井宏樹から強奪したもの。世界を知る日本代表選手を上回った。
「普段はアンカーなので、前半はメンタル的にナイーブになったけれど、後半は自分がやれるプレーをやろうとしたんです。だから、サイドバックだという感覚をなくして、自分ができることやろうと、普段やっている感じで臨みました」
だから後半は、サイドからアンカー的にボールを配るプレーが増えたし、まさにアンカーとして活用してきたボール奪取能力が、サイドバックで生きたのだ。
「自分はいっぱいいっぱいでしたけど、チームとしては斜めに走るところを使おうという話で、そこに流し込めればと考えていました」
酒井から奪い、中央に戻りながらポジションを取った脇坂に送ったパスで、まさに斜めに走らせた。
いきなりのミスからリカバーし、左サイドバックという概念にとらわれずに、そのタスクをアンカーとして消化し、特徴を最大限に生かして勝利に貢献する。スクランブルで生まれたハイブリッドなサイドバックが、川崎Fの強さを象徴してみせた。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE