上写真=宮城天は神戸戦では76分からピッチに入り、冷静な判断で3点目を演出した(写真◎J.LEAGUE)
「無理して打ってカウンターというのが怖かった」
その瞬間、スタンドで応援していたファン・サポーターも、中継で見つめていた人たちも思わず力を込めたのではないだろうか。宮城天が「あの場所」でボールを持ったのだ。
9月29日のJ1第28節ヴィッセル神戸戦。2-1で逆転して残り5分とアディショナルタイムを残すタイミングで、神戸のボージャン・クルキッチのパスが乱れて宮城の足元にこぼれてくる。そこが、1週間前の鹿島アントラーズ戦でアディショナルタイムに劇的逆転勝利を導く強烈なミドルシュートを放ったときと同じような、ペナルティーエリア付近のゴール右寄りのエリアだったのだ。無回転ミドル再び、の期待が高まった。
そこでエネルギーをなみなみと充填させたのは、もちろん宮城本人である。
「ああいうところで受けることが多くて、鹿島戦で決めたあたりだったし、あそこでミドルシュートに向かう姿勢が持ち味なので、ああいうところに来たら全部打とうとしていました」
だが、打たなかった。冷静さが勝った。右前に旗手怜央がいるのが見えた。
「中のセンターバックが2人とも(身長が)高かったし、シュートに対してゴールにかぶせるように行った記憶があるので、そういうときに無理して打って(取られてしまって)カウンターというのが怖かったんです。ちょっと消極的という形にはなっちゃうかもしれないけれど、よりゴールに近いところ、確実性を選びました」
そこでパスに切り替え、受けた旗手がペナルティーエリアの深くからヒールで落とし、入れ替わるように下がってもらった家長昭博が相手を半身でブロックしながら、「伝家の宝刀」と呼べそうな左足シュートでゴール左に突き刺してみせたのだ。宮城の冷静さがきっかけで生まれた「ノルマ達成」の3点目だった。
鹿島戦でJ1初ゴールとなる一撃を食らわせていたからこその余裕でもあっただろう。そうでなければ、ゴールがほしくて無理を承知で狙っていたかもしれない。
その鹿島戦のひと振りについて、改めて思い返す。シュートを打って、決めて、その場で両手を広げて感慨にふけり、仲間の手荒い祝福を受けて…。
「正直なところ」と切り出して、あのシーンの裏話を明かした。
「前日にイメージトレーニングしていたんですよ。僕はあまりイエローカードをもらわないので、点を取って、ユニフォームを脱いで走り回ろうかと思っていたんです」
ただ、そこは自重した。
「でも、その試合のプレーが良くなくて、最悪だと思っていてシュートを打ったら入って。打ったあとの映像を見てもらうとわかると思うんですけど、(上を向いて表情を再現しながら)良かった〜という顔をしているんですね。それと、時間帯がわからなかったので守備もしないといけないし、走り回れないな、と思って。ベンチまで行こうかなともと思ったけど、みんなも動きたくないだろうから、あそこで喜んでいました」
アディショナルタイム4分の大逆転弾で沸きに沸く周囲の歓喜とは対称的に、実は残り時間の守備のことも考えて体力温存を最優先にするほどに落ち着いていたのだ。でももちろん、仲間の祝福は素直にうれしかった。
「最初はハグしてくれるだけだったんですけど、倒しちゃえ、みたいな声が聞こえて倒されて、パチパチやられて。でも、初ゴールだったのでそういうもの含めてうれしかったですね。何度見てもうれしいです」
繰り返し、その瞬間の映像を見返して、さらにゴールを、の意欲が湧き出てくる。
「優勝という言葉を身近に感じますけど、優勝するしない以前に、まず試合で活躍したいし点を取りたいです。優勝へ向かって進んでいく中で点を取るということは、価値を上げることなので、得点のことしか考えていないです」
ゴールしか見えない。そのたぎる欲望こそ、連覇へ向けて走るこのチームの新しいパワーになっていく。