上写真=徳島戦では3-1の勝利。鬼木達監督は「勝っているときに反省するのはいいが、調子がよくないときに原因を探す必要はないと思っている」と選手を導く(写真◎J.LEAGUE)
「彼が蹴って外すなら仕方がない」
川崎フロンターレにとっては「復活の1勝」になるかもしれない。
9月19日のJ1第29節徳島ヴォルディス戦は、とても難しい試合だった。ルヴァンカップ準々決勝で2試合連続ドローながら、第2戦の終了間際に同点となるアウェーゴールを許す衝撃的な敗退、続くACLラウンド16で韓国に渡って前回王者の蔚山現代と戦い、0-0からPK戦で敗退。二つの大きな目標を失って帰国し、隔離生活を送りながら川崎には戻らずに大阪から徳島に移動して戦う、という中での一戦だった。
そこで3-1の快勝をつかんだのだ。もう一度、気持ちを奮い立たせるために価値ある勝利になった。
鬼木達監督はマルシーニョを左ウイングでデビューさせ、遠野大弥を右ウイングで先発起用、知念慶を最前線に据える3トップを組んだ。アンカーには橘田健人をコンバートし、負傷から戻ってきた旗手怜央が脇坂泰斗とともにインサイドハーフに入った。中盤から前は、鬼木監督のいう「フレッシュなメンバー」だ。
そんな彼らが勝利をもぎ取った。マルシーニョが自慢のドリブルから倒されPKを獲得、これを知念が決めれば、橘田、旗手、マルシーニョと中央をパスワークで崩し切って最後は脇坂が美しく仕上げる川崎Fらしい追加点を挙げ、最後は脇坂の右CKから知念がヘッドで押し込んだ。
2ゴールで主役に躍り出た知念は晴れがましくヒーローインタビューに答えた。
「チームがACLで過密日程できつい中で貢献できたことはうれしく思います」
「PKはACLでも決めていたので自信を持って蹴ることができました」
「(自身2点目は)練習で泰斗があそこにいいボールを蹴るのはわかっていたので、そこに狙い通りに入れたことが得点につながったと思います」
「あと4連戦が残っているので、優勝するためには1試合1試合、大事なゲームが続きます。気を抜かずチームに貢献できるように良い準備をしたいと思います」
その心意気を、鬼木監督は頼もしく見つめていた。
「彼は気持ちのところかなと思っています。ゴールに向かう姿勢が一番の持ち味なので出してほしいし、徳島戦ではそこを出したことによって得点やボールを収めるところや背後に走るところの優先順位が明確に出てきていて、やるべきことがしっかりできていました。本当に良かったと思います。チームに力をくれましたし、自分そうですけれど、一緒にプレーしている選手がここで頑張ってほしい、走ってほしい、というタイミングを逃さずやってくれました」
不思議なもので、一つ吹っ切れれば持ち味がのびのびと表現される。知念はACLの敗戦の後に「僕は立場的にはサブが多いのでチームのために終盤にかけて走らなければいけないと思っています」と語っていて、内なる何かが変わる気配があった。
鬼木監督はPKキッカーの選択は選手に任せているが、知念が名乗り出たのは当然と見ていた。
「彼はPKに自信を持っていますし、彼が蹴って外すなら仕方がないですね。ストライカーに任せて正解だったと思います。フォワードというのは点を取ると自信がつくものですから」
みなぎる意欲を感じたからこそ、鬼木監督は「交代枠が残っていましたが、最後まで使ったのは、それだけあのゲームで飛び抜けていたからです」と信頼を示した。蔚山現代戦で素晴らしい働きをした橘田に加えて、これでまた、層が厚くなる。
もちろん、鬼木監督はただ褒めるだけではなく「でも、守備はもうちょい頑張れるかな」と笑ってさらなる要求も忘れなかった。でもそれもまた、信用の証だ。
次は、鬼木監督にとって古巣だから「思うところはある」という鹿島アントラーズ戦。過密日程で苦しい状況は変わらないが、選手選考でうれしい悲鳴が聞こえてきそうだ。