上写真=前田大然がハットトリック。特に2点目のループは絶品だった(写真◎J.LEAGUE)
■2021年8月15日 明治安田生命J1リーグ第24節(@ニッパツ/観衆4,752人)
横浜FM 5-1 大分
得点者:(横)前田大然3、レオ・セアラ2
(大)伊佐耕平
「体が勝手にそういうふうに動いている」
3つのゴール、1つのアシスト、そして相手のミスを誘う前線へのパスでゴールの起点に。横浜F・マリノスが大分トリニータから奪い取った5つのゴールすべては、前田大然から生まれたものだった。まさに、大然劇場。
「素直にうれしいです」
朴訥としたこの人らしい振り返りだが、プロ初のハットトリックだ。
右サイドのパス交換から相手守備を完全に崩し、仲川輝人の折り返しに詰めたのが30分の先制ゴール。39分に同点とされたが、前半終了間近の45分には大分のGK高木駿のゴールキックをヘッドではね返すと、これが相手のミスを誘って最後はレオ・セアラがループで決めた。
後半は一方的だった。55分に扇原貴宏の美しいスルーパスで左を抜け出して折り返し、レオ・セアラのこの日2点目をお膳立て。すると、「大然劇場」のクライマックスがやってくる。交代策によって左ウイングからセンターフォワードにポジションを移したすぐ後の75分、水沼宏太のミドルパスで右サイドのオープンスペースに走り出すと、柔らかなトラップでボールを手なずけて、次の瞬間、ミドルレンジから優しい弧を描くループシュートを決めてみせた。
「オープンな展開になっていて、その前にセンターフォワードになったので背後は狙っていました。いいボールが来て決めるだけでした。トラップしたときにキーパーを見たというよりは感覚で。ああいう感じで来たらループかなという感覚ですかね」
余計な力が入らず、感性に導かれるままに自然体で放った見事な一発だった。
締めは83分。左サイドからグイグイと斜めにドリブルで突破したエウベルのスピードに合わせてゴール前に入り込み、折り返しをヘッドで押し込んで、ハットトリックを達成した。
「ゴールをするときは、いいのかはわからないけれど感覚でやっている部分があるんです。だから、そこまで考えてやったわけではなくて体が勝手にそういうふうに動いているので、いまとてもいい感じなのかなと思います」
好調の実感は、東京オリンピックでの経験が下支えしているという。6試合のうち3試合、65分しかプレーできず、フランス戦で1ゴール決めたものの、不完全燃焼だった。
「試合に絡んでいなくて悔しさだったり、ちょっとしたこともできるようになったことを持ち帰ってきました。いまはうまく表現できているのかなと思っています」
鬱憤を晴らすハットトリック、とするのは短絡的だが、世界大会の経験は結果として表に出てくるだけではなくて、もっと深いところに根ざしているというのだ。
ちなみに、ハットトリックの1点目では、家族と話して決めたバイキンマンのパフォーマンスを披露した。しかし、残り2つのゴールでは特になし。「1点は取ると決めていましたけど、2点目と3点目(のパフォーマンス)は決めていなかったので、そこが反省です」と笑わせたが、これからは試合前の家族会議で少なくとも3つまで決めておくことが、前田家の新しい習慣になるかもしれない。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE