上写真=橘田健人はACLで大きな飛躍を遂げた。しかし本人はまだまだと納得していない(写真◎2021 Asia Football Confederation)
「球際とハードワークで圧倒したい」
サッカーの現場に限らずだが、若手が短い期間に突然ぐっと伸びる、という不思議な話を聞くことがよくある。川崎フロンターレの橘田健人はいまこの瞬間がまさに、それに当たるのではないだろうか。
ACLで中2日の6連戦を戦う中で5試合に出場し、3試合目のユナイテッドシティ(フィリピン)戦では、もちろんプロ初のハットトリック。8-0の大勝の立役者になって「まさか自分がハットトリックするとは驚き」と初々しい。力の差があったからでもあるが、3ゴールそのものはもちろんのこと、そこに至るプレーの連続性が見事だった。それこそ、成長の証。
「ハードワークや切り替えの部分は鬼木監督がチームに厳しく言っていて、自分はそこが評価されていると思っているので、やり続けた結果、ボールが転がってきたのでよかったです」
攻撃に入り、奪われても足を止めずに取り返しに行き、また攻撃し、の繰り返しで、足と頭を止めないことでボールがこぼれてきた。特に3点目を蹴り込んだボールは、強烈なバックスピンがかかって自分のところに戻ってきたのだ。まるで、サッカーの神様からのプレゼントのようだった。
ところが、「自分としては、そんなに…」。成長期にあることを自覚することもなく、ただがむしゃらな毎日だ。
「正直あんまり、自分の中では実感がないというか。ACLでは3チームと試合をして韓国の大邸は力があったと思います。でもその試合で自分なにかできたかどうか。いいプレーはできなかったので、そこでできていればまた違ったと思いますけど」
田中碧がドイツのフォルトゥナ・デュッセルドルフに期限付き移籍したことで、インサイドハーフのポジションが空いた。もちろん、橘田もそのイスを狙っている。
「でも現状はまだ、実力的にはスタメンになれる立ち位置ではないので」と自分を見つめる視線はクールだ。ただ、それはあきらめではない。「日々の練習からしっかり取り組むことと、チャンスをつかむ準備をすることが大事だと思っています」と、これまで川崎Fの先輩たちがポジションを手にしてきたのと同じように、毎日を大切にしている。
「攻撃の部分でボール受けることや前を向くことが、ヤスくん(脇坂泰斗)や(大島)僚太くん、(旗手)怜央に劣っているので、日々練習から意識してやっているけれどまだ実力が足りないと感じますし、そこはもっと伸ばしていくべきかと思っています」
旗手からは、切り替えの鋭さや球際の強さを。
脇坂からは、ボールを受けてするりと抜け出すターンの技術を。
大島からは、ゲームを落ち着かせる能力とゴール前に出ていく動きを。
名前を挙げた3人から、それぞれ「いいところ」を学び取りたいと明かす。そこに、橘田が自ら武器だとする「運動量や相手のパスを予測してインターセプトすること」を組み合わせれば、昇り龍の勢いは無尽蔵に伸びていくに違いない。
ACLから戻り、最初のゲームとなった7月17日のJ1第18節清水エスパルス戦でも66分からピッチに登場し、しっかりチームの一員として機能して2-0の勝利を手にした。いま、チームは連戦や移動による極度の疲労と新型コロナウイルスの感染によって厳しい状況だが、そんなときこそ橘田の元気あふれるプレーが物を言う。
21日には天皇杯3回戦のジェフユナイテッド千葉戦がある。2回戦でAC長野パルセイロに苦しめられながら、起死回生の同点弾を決めてみせたのも、この橘田。
「相手は怖いもの知らずで向かってくると思うので、球際とハードワークで圧倒したい」
そのプレーぶりが、最強フロンターレの未来になる。気持ちよく勝って、全冠制覇への道をつなげるつもりだ。