上写真=田中達也が先制ヘッド。左からのクロスにきっちりとたたきつけてゴール左に押し込んだ(写真◎J.LEAGUE)
■2021年5月22日 明治安田生命J1リーグ第15節(@埼スタ/観衆4,917人)
浦和 2-0 神戸
得点:(浦)田中達也、キャスパー・ユンカー
「僕の走るという武器が出てきた」
左サイドを深くえぐった汰木康也のクロスがふわりと上がった瞬間、スタジアムは息をのんだ。大きなキャスパー・ユンカーの頭上を越えたからだ。刹那、その後ろで172cmの小柄な男が高く跳んでいた。田中達也である。そのシュートは基本に忠実だった。頭でしっかり叩きつけ、ゴールの隅へ。驚いたのはファン・サポーターだけではなかった。本人も面食らっていた。
「ヘディングでのゴールは、自分でもびっくりしています」
それでも、左クロスに飛び込んでいく形はトレーニングのたまもの。リカルド・ロドリゲス監督に口酸っぱく言われていた。左サイドで崩せば、右サイドが中に入っていく。逆もしかり。
「サイドの選手は、そこを逃さないように言われていますから。普段の練習からやっている形で取れたのは良かったです」
リーグ戦の先発出場はまだ3試合目。移籍1年目の28歳は、前に飛び出すときも、後ろに戻るときも、いつでも全力疾走。試合を重ねるごとに効果的なプレーが増えている。J1第11節の大分トリニータ戦は途中出場で1ゴール、前節のガンバ大阪戦では1得点2アシスト。申し分のない働きである。本人も手応えを感じている。
「僕の走るという武器が出せるようになってきています」
プレースタイルは一見がむしゃらに見えるかもしれないが、頭の中は整理されている。考えなしに走り回っているわけではない。むしろ、ポジショナルプレーへの理解度は高い。ロアッソ熊本、大分トリニータでポジショニングについて一から学んだ。そして、何よりも勉強熱心なのだ。同じようなスタイルで戦う欧州クラブの試合を分析し、立ち位置などの研究を欠かさない。グアルディオラ監督が率いるイングランドのマンチェスター・シティにとどまらず、イタリアのサッスオーロまでチェックしている。
「ポジショナルプレーを採用しているチームはよく見ていますね」
戦術マニアを自負し、余暇までサッカー漬け。キャンプのときからリカルド・ロドリゲス監督の目指すサッカーをいち早く理解していた。シーズン序盤はコンディションが整わずに少し出遅れたものの、ここからさらなる飛躍を誓う。
「ゴールとアシストを続けて、チームに貢献していきたい」
同姓同名のレジェンドが田中に託した言葉がよみがえる。
「新しい田中達也像をつくってくれ」
いままさに"令和のタツヤ"の存在がどんどん大きくなっている。
取材◎杉園昌之 写真◎J.LEAGUE