鬼木達監督の指示の声が話題になった。名古屋グランパスとの連戦の第1戦となった4月29日のアウェーゲームで、ポジショニングやパスの判断について、若手に細やかな言葉で修正を促したのだ。その細かさにこそ、川崎フロンターレの強さの秘密が隠されているのではないか。

上写真=鬼木達監督の「背中から行け!」が話題に。その言葉に守備の哲学が隠されている(写真◎J.LEAGUE)

「なんとなくというのを減らしたい」

 2位名古屋グランパスとの直接対決が連戦となり、4月29日の第1戦に4-0で完勝。川崎強し、とただただ印象づける結果になった。

 話題になったのが、徹底した勝利への執念を象徴する「声」だった。81分、名古屋の左サイドからのスローインのときに米本拓司がフリーになっていて、ボールが入る前からすぐ近くにいる知念慶に対して「背中から行け!」と叫んだ指示が中継のマイクに拾われていた。

 そのあと、実際に米本にボールが投げられると、遅れて進行方向に入った知念に対して「そっちじゃない!」と再び大声で指示を飛ばした。

「大事なことというか、3-0だったか4-0だったかのときでも何が起こるか分からない場面で、いろいろなやり方があるのでそういう言葉になったんだと思います。深くは言いづらいですけどね」

 つまり、相手がボールを受ける前に視野から隠れて死角から寄せていって、ボールが入った瞬間に奪いきるための指示だった。ボールを受けた相手の進行方向を抑えるのはリアクションの守備としては間違いではないだろうが、それでは遅れてしまう。事前に予測してボールそのものを自分たちのテンポで奪ってしまうという、川崎Fの守備の哲学を象徴する声だった。

「そこにいるだけはダメで、すべてがそうというわけではないですけど、その場所によって行き方があるので」

 この細かすぎる細かさが川崎Fの強さの秘密だろう。前半にもバックパスを選択した旗手怜央に、前に出すように伝えた指示が拾われている。

「バックパスがダメなのではないですが、意図がほしいんですよね。相手を引き出すためのバックパスで、全員が動けてサポートできればいいですが、ただなんとなく下げて、そこから相手のスイッチが入っちゃうこともある。そういうスキを見せたくないというか、わざわざ下げなくても自分たちが行けるのであれば、もう一つ前でプレーしてそこからまた次に行けばいい。そういう、なんとなくというのを減らしたいという思いがあります。ちょっとしたそういうところは必要だと思って言い続けていて、選手は自分の判断を大事にしながらも、気づかないところに目を向けてもらいたいために言いました」

 バックパスは相手のスイッチになり得る、という警戒心。もう一つ前にボールを運んでから、相手を崩していくべきだという大胆な意志。その小さな積み重ねがやがて、勝利へとつながっていく。

 だから、名古屋との「第2戦」でも追求は続けていく。

「一番は気を引き締めて、もう一回ゼロからのスタートで一戦目のつもりで戦うことが大事です。前節はいい形で先制できたことでああいう結果になりましたが、次はホームだからといって前回のようになると思っていないし、難しい展開になることを予想しながらもう1回、気持ちは慎重に、やることは大胆に戦おうと思っています」

 5月4日のホームゲームで勝てば、名古屋とは勝ち点9の差をつけて、昨年に続いてトップをひた走る「一人旅」に出ることができる。


This article is a sponsored article by
''.