名古屋グランパスとの「頂上決戦」2連戦、4月29日の第1戦は川崎フロンターレが4-0で圧勝するという結果に終わった。無失点の礎となったGKチョン・ソンリョンはビッグセーブを見せただけではなく、キックの正確性でも大きく貢献した。超攻撃サッカーを下支えする守護神は、アップグレードを図り続けている。

上写真=名古屋を相手に4-0で大勝したゲームで、チョン・ソンリョンはキックの正確性でゴールを導いた(写真◎J.LEAGUE)

その瞬間の我慢

 4月29日に行われた名古屋グランパスとの「連続頂上決戦」第1ラウンドは、川崎フロンターレの圧勝だった。23分までに3点を奪い、後半にも追加して4-0としたスコアと内容からは超強力な攻撃陣の充実ぶりが目立つが、「0」を担ったGKチョン・ソンリョンの活躍も見逃せない。

 ビッグシーンは54分。左サイドをマテウスが一気にドリブルで抜け出してきた。警戒していたカウンターだ。中央から左に走り出した柿谷曜一朗にパスが出ると、半身の状態からすかさずシュートを打ってきた。名古屋が意地の反撃で1点を返す…と思った次の瞬間、チョン・ソンリョンがブロックしていた。マテウスがジェジエウの裏側にパスを送り出したときに、柿谷のダッシュを見て迷いなく前に飛び出していたのだ。

「名古屋の守備は堅いですし強いカウンターあるので、ジェジエウは守備力が強いけれど何が起こるか分かりませんから、僕たちの攻撃の最中にも準備はしていました」

 一瞬で三笘薫を置き去りにしたドリブルからパスを出したマテウス、川崎Fの守備陣の嫌なところに走り込んだ柿谷、ブロックしたチョン・ソンリョンと、どれも一級品のプレー。さすがは「頂上決戦」にふさわしいシーンだったが、その瞬間、チョン・ソンリョンは「我慢」をしていた。

「キーパーとして、あの場面で出るか出ないかの判断は大事です。あそこでいいタイミングで出ても、先に倒れてはいけないと心がけていました。先に倒れなかったことでタイミング良くシュートを防ぐことができました」

 最後の最後まで待って、鋭いシュートを左手に当てて防いだビッグセーブ。攻撃サッカーを下支えするチョン・ソンリョンの「防御力」は健在である。

「西川選手の素晴らしいキックを見て」

「0」だけではなく、得点にも関与したのがこの日のファインプレーだ。10分にレアンドロ・ダミアンが決めたヘディングシュート、そのスタート地点はチョン・ソンリョンのキックだった。

 まず田中碧が蹴った右CKがクリアされ、左サイドに流れてきて家長昭博、旗手怜央と経由して、一度チョン・ソンリョンまで戻された。すると右サイドいっぱいに張っていた田中まで一気にロングパス。田中のクロスがはじかれたこぼれ球を登里享平が拾って左に回し、家長の最高のクロスをレアンドロ・ダミアンがヘッドで流し込んだ、というシーンだ。

 チョン・ソンリョンのキックで一気に揺さぶった。

「まず前を見ることを意識しています。相手が左に寄っていたので右が空いていました。そこで速いキックができたと思います」

 プレーイメージは「西川周作」だったという。

「西川選手の素晴らしいキックを最近映像で見て、自分でもチャレンジしたいと思っていました。そういうチャレンジ精神を持ってやっています」

 浦和レッズの守護神が誇るキックの正確性はつとに有名。まさにあのストレート系のフィードに触発された、矢のような「西川キック」だったのだ。

 攻撃は中盤から前だけで行われているのではなく、最終ラインを高く設定することで適切な距離感を維持してパスの起点をより増やすことができる。その分、後ろにできるスペースはチョン・ソンリョンの「舞台」になる。

「去年から監督からトライするようにと指示があって、ビルドアップに関わることが増えました。ライン高く設定しようとトライすることを意識しています」

「今年はキックの部分でもアップグレードしたいと思っています。僕だけではなくて監督が求めているところでもあるので、練習から意識的にやっています」

 できることを過不足なくこなすのはもちろんだが、できないことをできるようにするのも進化に欠かせない。それをあのキックで証明してみせた。


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