上写真=田中碧は力強いプレーでチームをけん引した(写真◎J.LEAGUE)
前半の難しさを後半に解消
5連勝中の川崎Fで、圧倒的な存在感を示しているのが田中碧だ。ダイナミックなプレーでチームを引っ張っている。攻撃では前線のサポートに注力しつつ、エリア内に走り込み、サイドからクロスを放ち、縦パスを打ち込み、ミドルシュートで相手の脅威になる。守備でもインサイドMFを務める際にはジョアン・シミッチをしっかり支援しつつ、チームのバランスを見極めてプレーし、アンカーに入れば、ビルドアップの要として攻撃を司り、最終ラインを助けることも忘れない。
まさしく八面六臂の活躍ぶり。ここまで5試合すべてに先発し、仙台戦は89分に交代したものの、ほぼフル出場。その存在感は圧倒的なものがある。柏戦でも戦況を見極めてプレーしていた。
「相手も2トップ(縦型)の一人をアンカーにつけてきました。センターバックに時間があるときには、センターバックに運んで来てもらいたいと思いながらプレーしていましたが、もう少し後半みたいに自分がボールを触れれば、ボールを前進できる。ただ自分が触りに行った方がいいのか。それとも前で待っていて、ボールをもらった方がいいのか、状況によって違うとは思います」
前半、思う通りにプレーできないチームの中で、考えを巡らせ、どう振舞うべきかを頭の中を整理して田中は後半を迎えていた。
「今日の後半に関しては、チームがうまく回るように前半に比べて自分がボールを触りながら進めようと考えていました。その結果、少しずつチャンスもできましたし、ボールをゆっくりと持てる時間も増えていきました。そこは良かったと思います。ただ、チームとしてはよりその部分のクオリティーと言うか、もう少し少人数で運べれば前に人数をかけられる。もっともっとやっていかなければいけない」
実際、ボール保持率は上がり、相手を押し込む時間が増えた。そして家長昭博の決勝ゴールが生まれた。単独で突破口をひらく三笘薫の投入も大きかったが、チーム全体が前がかりになっていたことも見逃せないだろう。円滑なボールの循環が、三笘による左からの崩しをより強力なものにし、ボックス内に複数人が飛び込むことを可能にした。
「相手のロングボールに対して下がりすぎると、自分たちが押し込まれてしまう。そこは強気に前に出ながら、セカンドボールを拾えれば、自分たちの流れになるとハーフタイムに話していました。ボールを保持する時間を増やして少しずつ前進して行こうとハーフタイムに確認し、それを実行できました」
問題点を把握し、チームで共有し、修正して手に入れたのが柏戦の勝ち点3だ。11節のセレッソ大阪戦(3月3日)の逆転勝利もそうだが、ゲーム中にこうした修正を実践できるのが、これまで同じベクトルの中で歩んできた川崎Fの強みでもあるだろう。今季はメンバーの入れ替わりもあり、中盤を再構築する必要があった中、大島僚太も欠場中で、心配する向きがあったのは確かだ。しかし、その心配は杞憂に終わった。
とりわけ相手の狙いと戦況を読み取り、最適解をはじき出す田中の存在は大きい。ピッチの中央で的確に振舞う『違いの分かる男』が効いている。