上写真=児玉駿斗は沖縄キャンプで守備の意識を高めてトレーニングに励んでいる(写真提供◎名古屋グランパス)
「味方にすぐ預けるというシンプルなことを」
名古屋グランパスファミリーが待ちに待ったタレントがいま、沖縄で跳ねている。児玉駿斗。2021年からの加入が発表されたのが3年も前、という異例の有望株だ。
特別指定選手としてすでにプロのピッチは経験していて、風間八宏前監督時代の2018年にJ1で8試合に出場。ルヴァンカップではゴールも挙げている。5月16日のガンバ大阪戦で、ペナルティーエリアに入る直前のところからゴール右へ優しくパスを送り届けるようなシュートを決めて、一度見たら忘れない、その類い稀なセンスを披露している。
そしていよいよ、プロとしての児玉のルーキーイヤーがやって来た。ボールを足元に置いて相手をいなし、顔を上げて首を振り決定的なパスを配っていく。サイドハーフでもトップ下でもボランチでもこなすことのできるマルチロールが武器になる。
マッシモ・フィッカデンティ監督がまず据えたのが、ボランチだった。2月3日の大宮アルディージャとの練習試合で起用された。
「守備は必死にやっている感じです。戦術も分からない状態なので本当に難しい試合だったと思います」
「いろいろな声がある中でどれがいいかは試合中に判断するのは難しくて、聞きながらやっていました。何かを求められるというよりも、まだ自分のプレーが出せていません。前に行きたいときにも我慢する、といったことは、もっと理解しないといけないのかなと思います」
首を傾げながらも、一つひとつ吟味するように話す。悩みに悩んでいるようだ。
「周りの選手がどう動くかを見ながらやっていたので、テンポが遅くなったりしたんですけど、裏を狙ったり短いパスも長いパスも味方に合わせながら、まだ迷いながらですけどやっている感じですね」
本音がこぼれてくるが、その迷いを振り切ったときに、万能型の才能がプロの世界でも解き放たれるという期待が集まってくる。
「自分のいままでやってきたサッカーではないので、早くそこになじむことを意識していたらああいうプレーになるのでまだまだって感じですかね。ぼちぼちやっていきたいです」
ぼちぼち、と言うぐらいだから焦りはないが、クリアするための最優先事項には守備を挙げている。
「球際は寄せられるところはしっかり寄せて、そこで奪うことは意識しています」
「試合に出ないとうまくなれないので、そこ(守備)を意識していますね」
その感性から考えれば、「奪ってから味方に配る」というトランジションの部分にこそ、大いなる可能性を秘めているのではないだろうか。
「ポジション取りが分からないので、聞きながらポジションを取っていました。練習中は守備のことは意識していますね、いまは。そこでテンポを作って奪ったときや持ったときに、自分の特徴を出したり味方にすぐ預けるというシンプルなことを心がけています」
迷いの鎖を断ち切る刃は、その言葉にちゃんと含まれていた。「シンプル」。