上写真=中村憲剛引退の寂しさをかき消そうとするためか、時折報道陣も笑わせながらの登里らしいオンライン会見になった(写真◎スクリーンショット)
自分としてもどんどんファンになっていきます
「最初はドッキリかと思ってキョロキョロして、カメラを探しちゃいました」
登里享平は努めて明るく振る舞おうとしたのか、中村憲剛から直接、引退を伝えられたときのことをそんな風に話した。
「呼ばれて部屋に入ったら2人っきりで、ちょっとおかしいなというのが本音でした。話し始めた瞬間にピリッという空気に変わったので、本当に準備していない状態で言われたんです」
「いや、もっとできますよと言いました。(引退するなら)いまじゃない、ということも伝えましたけど、目や顔を見たら強い意志を持っていたので、引き止めるということはなく、自分なりに決断を尊重するようにしました」
ほとんどの選手は、11月1日の引退会見の前にチーム全体のミーティングで初めて聞いたのだという。
「記者会見があるということは他の選手は知っていて、でもその内容はみんな分からなかったんです。僕がたまたま午前中に幼稚園の面接でスーツを着ていったのでそのままミーティングに参加しんですけど、(長谷川)竜也とか(脇坂)泰斗が、『ノボリさん、どうしたんですか、なにかやったんですか』という感じになるぐらい、何があるのか、という雰囲気でした」
「庄子さん(春男=強化本部本部長)が、憲剛から話が、と言ったときにみんな覚悟したようで、憲剛さんが冒頭に引退しますって言った瞬間にみんな泣き始めて、その言葉はいま思い出してもすごく寂しいですね」
2009年にこのクラブに入ってから、中村憲剛という人は常に登里の憧れだった。
「憲剛さんがいたから自分がここまで成長できたと思います。ポジションは違うけど、憲剛さんのような選手になりたいと背中を見てきて頑張ってきた存在です」
「憲剛さんが引退を考え始めたのは35歳だと言ってましたけど、自分は憲剛さんの本当のすごさをここ数年で明確に理解し始めて、自分が言うのもおかしいですけど、憲剛さん自身も歳を増すごとに成長するすごさがあって、成長スピードも衰えなくて、ここからどこまでできるのか、どこまでやるのか、と思っていたんです。ケガをしてどうなるかと思っていましたけど、皆さんが見てもお分かりのようにまたすごくパワーアップして帰ってきた感覚があります。これでまた、どこまでできるのかと思っていたので…」
そのすごみはきっと、近い場所でともにボールを蹴ってきたからこそ分かるものだ。それがうらやましい。
「話しだしたら長くなりますよ。自分としてもどんどんファンになっていきますし、プレーヤーとしても人としても大好きなんです。自分なりに感じる憲剛さんのすごさを本人にも言いましたけどね」
そんな中で挙げたのは、思いやり、だった。
「今年の序盤も言われたのは、プレースタイルが変わってすごいな、とか、サッカーうまいね、とか、憲剛さんがリハビリ中なのにそう言ってくれて、それが自分にとってすごくうれしい言葉だったなといま思い出して感じています。憲剛さんみたいになりたい、そういう風に思ってきたので、憧れている人にそう言ってもらえただけでも自分が報われる感覚もありました」
そんな中村と一緒にプレーできるのもあと2カ月。どれだけ濃密な日々になるのか、登里自身も楽しみにしている。