上写真=まだまだ突き詰めていく。鬼木監督の挑戦はいくら勝っても終わらない(写真◎J.LEAGUE)
見る作業があって、判断できる
「カウンターを狙うチームに関しても、怖がったら相手の思うつぼです。真っ向勝負でしっかりやっていきたいと思います。やられるときはどれだけ対策してもやられるわけですから、反省しても引きずらずにやりたいですね」
暫定2位のFC東京と勝ち点15もの差をつけて首位を独走する川崎フロンターレにとって、目指す先はもうこの鬼木達監督の言葉に尽きるだろう。怖がったら負け。真っ向勝負で貫く。超攻撃的フットボールの行く末は、この強い意志にかかっている。
10月7日のJリーグYBCルヴァンカップ準決勝でFC東京に0-2で敗れ、失意のままに中2日で迎えたJ1第21節のベガルタ仙台戦では苦しみながら1-0で逃げ切った。この2試合で経験した難しさは、川崎Fの今後に教訓として生かされることになるだろう。
鬼木監督はその仙台戦について、選手たちに「気づかないかな、というところを指摘しながら(分析を)進めました」と話した。リーグ戦では好調でも、カップ戦でFC東京に敗れて連覇を逃した衝撃がまったくないとは言えない。気づかないかな、というのは、気づいていながらも実行できていない、ということなのか、あるいは本当に細かすぎて気づいていないだけなのか。
「選手が気づいているかどうかは分からないし、気づいていると言うかもしれませんが、もし気づいているのであれば逃してはいけないチャンスがあって、そこは(パスを)出しなさい、というか、出せるんじゃないかという場面がありました。細かいところですけど、出し手のところも受け手のところもそのタイミングであればチャンスなるんだから、というシーンがあるんです」
「質というのは、止める蹴るの部分だけではなくて、走り出すタイミングも大事で、その走り出すタイミングを見ておいてあげるためのトラップとか、ツーステップじゃなくてワンステップだったら蹴れたんじゃないか、という話をしました」
「だから、『見ておく』というのが大事になってきて、見る作業があって判断できるという部分は攻撃で増やしていきたいですね。仙台戦は悪くはなかったけれど、もっともっとチャンスを作れてもおかしくなかったんですから」
見るためのトラップ、とか、ツーステップではなくワンステップで、という概念だけでも、その細かすぎるほどの細やかさは、さすが川崎Fだとうならされるものだ。その積み上げが、あの圧倒的な攻撃力につながっていく。
これでリーグ戦は9連勝。前回は10連勝の記録を作ったところでストップしたが、鬼木監督自身がそのときに「自分たちの記録は自分たちで塗り替えよう」と選手に呼びかけたことが現実になるまでに、あと少し。選手たちは、いい意味で勝ち慣れてきたのだと鬼木監督は言う。
「一番は浮かれないというところですよね。誰一人として勝っても浮かれていないところがすごく大事かなと思っていますし、リーグ戦で名古屋に負けたりカップ戦で東京に負けたりということはありますけど、次のゲームへの切り替えというか、勝っても負けても次、次へと進んでいっているのは頼もしいです」
勝っても喜ばない集団。きっと、チャンピオンになることしか、彼らを心から喜ばせる方法はないのだろう。残りは12試合。その間に、弾ける笑顔が見られるのだろうか。