明治安田生命J1リーグ第21節は、川崎フロンターレが珍しく1ゴールしか奪えずに、ベガルタ仙台を1−0で下した。この唯一のゴールは小林悠によるものだが、そこに至るステップワークの素晴らしさはまさに一流のそれだった。

上写真=41分に先制して喜ぶ。冷静なフィニッシュはさすがだった(写真◎J.LEAGUE)

■2020年10月10日 J1リーグ第21節(@等々力:観衆8,263人)
川崎F 1-0 仙台
得点:(川)小林悠

分からないところに入って

 川崎フロンターレのゴールはいつも優れた技術の粋を集めたものだが、この日、唯一となったゴールもまさしく「ステップの技術」によるものだった。

 41分、中盤左に少し落ちたところで三笘薫が受けて前を向くと、その先にいた小林悠はマークについていたアピアウィア久の背中の方に隠れるように、数歩離れた。これで相手も動く。その動いたあとにパスコースができた。小林はその道の先へ斜め前にダッシュすると、最高のタイミングで三笘から優しいパスが送られてくる。ペナルティーエリアに入って受けて、飛び出してきたGKの股の間を左足で巧みに抜くフィニッシュ。ようやくのゴールにスタジアムは沸いた。

「相手のセンターバックの間で動いて、バックステップというか、どっちがつくのか分からないようなところに入って、手前のセンターバックの背後を突きました。薫がフリーだったので、動き直す時間もありましたからね」

 小林はそう説明する。このステップワークで、パスコース、自分が走るコース、受けるスペースの3つをいっぺんに作り出した。そして、フィニッシュも見事だった。再び小林の解説。

「スリッピーだったので、相手の股というか足元にしっかり流せればごちゃごちゃっとなって入るかなと思いました。相手に寄せられながらでしたけど、入ってよかったです」

 ただやはり、この一発で終わったことは貪欲なストライカーとしては納得がいかない。3日前にルヴァンカップ準決勝でFC東京に敗れたから、ここで勝つこと、しかもフロンターレらしく押し込んで決めきって勝つことを自分に求めていた。だが、結果は1−0。「勝てたことには満足しています」と話したが、その顔には「勝てたことだけ」と書いてあった。

「個人としてはシュートを決めきれませんでした」

 まずは自分への後悔だ。後半開始早々の49分に至近距離から狙ったがGKにブロックされ、56分にはジオゴ・マテウス、中村憲剛、ジオゴ・マテウス、大島僚太と縦に素早く運んで右のニアエリアで受けて鋭く狙ったが、またもGKのセーブに遭う。57分にも左からの車屋紳太郎の折り返しにタイミングを合わせて入ってきて右足で狙ったが、シュートは左ポストへ。

「(大島)僚太と憲剛さんと長くやっている選手が2シャドーで、いてほしいところにいてくれて、前日練習からチャンスを多く作れる感触がありました。ただ、フィニッシュのところでスリッピーだったので、もうちょっと(ボールへの足の)当て方を工夫できればもっと点が取れたかなと思います」

 そして、物足りなさはチームにも。

「チームとしては作りの部分でもパスミスが多かった。そこさえ普通にやれていればもっとチャンスは作れたんじゃないかと思います」

「残り10分ぐらいは攻め込まれている中で、守り切るのかどうか、チームとしてどう時間を遅らせるのか、意思統一が甘かったと思います。正直、相手のミスに助けられたわけで、そこはみんなで合わせていかなければいけない部分です。勝てているので前向きに修正の言葉かけやすくなるので、しっかり話し合って先に進めればなと思います」

 川崎Fといえども、課題は山積み。それも、理想が高いからこそだ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE


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