上写真=この笑顔で選手にも動画配信していたのかもしれない(写真◎スクリーンショット)
まさにプレーヤーズファースト
7月8日の第3節・柏レイソル戦は気持ちの良い勝利だった。3-1というスコアはもちろん、その内容が秀逸。2試合連続で新しい3-5-2システムで臨むと、前後左右のバランスが抜群で、それぞれが攻守に破綻のない距離感を保ち、パスコースを連続して複数作りながらボールを右に左にと運んでいった。敵将のネルシーニョ監督が前節までの4バックから3バックに合わせてくる警戒ぶりだった。
中断期間中にシフトチェンジを決断した下平隆宏監督は、狙いを説明する。
「チームにいる選手の特徴を考えたり、サイドバックやサイドハーフの人材が豊富ではなかったこともあります。サイドアタッカーとサイドバックのところをウイングバックとして考えました。3人で後ろを守っていけると思ったので3バックにして、あとは2トップにしたかったということもあります。いろんな考え方でトライしました」
選手に浸透させる方法が、少し驚きだった。
「YouTuberみたいに配信したんですよ」と明かすのは、下平監督自身だ。
「自粛期間中に、YouTubeに出てくる講師のようにボードを使って説明したり、参考になる試合の映像を見せたり、ポジションごとに海外の選手の映像も流したりと工夫したおかげで、すんなりいけたのかなと思います」
「あとは、選手たちが本当に積極的にトライしてくれて、3バックに変えてから躍動感が出ました。攻守にわたって選手が前向きにトライしてくれたおかげで、個々のパワーが出る印象があります」
自粛期間に「頭」を、練習再開後に「体」を刺激して選手に落とし込み、そして再開初戦で採用の運びとなったわけだ。その北海道コンサドーレ札幌戦に1-2で敗れた反省から微調整を加えると、柏に対しては試合運びの面でも上回って完勝、という好循環を生んでいる。
その強みを、下平監督自身はどこにフォーカスしているのか。
「選手のストロングが出てくれるといいと思っていて、最初は4-2-3-1の左のワイドだった斉藤は足元で受けてから勝負するしか選択できなかったけれど、2トップに入ったら自由にプレーして、いまは動きを学んでいるところです。3バックのところも選手のストロングが出やすくなっています」
シフトチェンジのきっかけも、その結果を見ても、一貫して選手の特徴を生かすという哲学が透けて見える。まさにプレーヤーズファースト。
この2試合は同じメンバーで戦っているが、超連戦に入ればやりくりにも苦心しそうだ。ただ下平監督は「経験から言って本当に計画通りにいかない」と苦笑い。「チームは生き物なので急にコンディションを崩したり、今回は選手や近しい人がコロナに感染する可能性もあって、出場自粛も考えられる状況です。ですから、考えすぎないようにしていきたい」と真正面から受け止めるつもりだ。
3-5-2システムへの移行は、その点でも優位に働きそうだ。例えば、アンカーのポジションについて。
「(佐藤)謙介が非常によくやってくれていますが、手塚(康平)もいてどちらを使うかというところです。謙介は経験もありますし、守備に回っても周りをうまく動かしたり、ビルドアップのときの立ち位置や体の向きが良くなっている」
1つのポジションに同じレベルの選手が2人。選手の特徴を元にフォーメーションをセットしたということは、ほかのポジションでも同様に「次の選手」が控えていることになる。
大崩れしないための「転ばぬ先の杖」も、あちこちに仕込み済みのようだ。