上写真=横浜FMとの開幕戦で戦術的な狙いを見事に機能させた小野瀬(写真◎Getty Images)
文◎北條 聡
変形のカギはウイングバック
宮本ガンバの新機軸が興味深い。
今季の開幕戦で演じたTransformation<トランスフォーメーション>だ。布陣を巧みに変形させながら攻守の利得を引き出す試みと言ってもいい。これが見事にハマり、J1王者の横浜F・マリノスを仕留めてみせた。
初期配置はバックスの手前にピボットを据えた3-1-4-2。昨年5月の大阪ダービー(12節)で実装し、チームのベースとなった布陣だが、これを攻守に変形させる新手を打ったわけだ。
妙味は二段構えの守備隊形にあった。敵陣では4-1-2-3に近い位置取りでハイプレスを試み、ミドルゾーンから後方では5-4-1にシフトして厚い防壁を築く。戦況に応じて、細やかに、速やかに配置を動かし、敵の攻め手を封じ込んだ。
変形のカギはウイングバックにある。
4-1-2-3の場合は右の小野瀬康介が最前線まで上がり、左の藤春廣輝が最後尾に下がる。そして、2トップの一角を担う倉田秋が左に開いて小野瀬と両翼を担った。5-4-1の場合は藤春に続いて小野瀬も最後尾まで下がり、倉田が中盤に落ちて、宇佐美貴史の1トップという形。あえて最重要キャストを挙げれば、縦の3つのポジションを独りで切り盛りする小野瀬か。
こうやれ――と言われたところで、おいそれと実践できるような類のものではない。設計図を描いたのは指揮官だが、優れた戦術眼と複数のポジション適性を備えた面子がそろうG大阪ならではの「変わり身」だろう。
攻守のフォーメーションを動かすやり方は昨今の流行だが、その多くは自分都合。攻守の型がそれぞれ決まっている。G大阪のそれは対応型だ。相手の布陣や戦い方を見極め、自在に形を変えていく。その点で一歩先を行くやり方だろう。
ただ、開幕戦で実践したトランスフォームには「対マリノス仕様」の含みが多分にあった。つまりは攻撃の局面で各々がめまぐるしく位置取りを変える先方のポジショナルプレーに対応するためだ。果たして、この先も変形の連続となるのかどうか。今季からポジショナルプレーの実装を企むJ1クラブが増えたことを考え含めると、同種の策を打つ試合は少なくないかもしれない。
いや、変わるべきはむしろ、相手の方か。
そもそも現在のG大阪はJ1でも指折りの攻撃力を誇る。ゲームの主導権を握る力が強い。しかも、大御所の遠藤保仁がピボットに収まってからボールを動かす力が一段と高まった。昨季終盤における遠藤の立ち回りはまさに別格。たった1本のパスで劇的に局面を変える力は少しも錆びついていない。