上写真=紺野和也はパース・グローリー戦に途中出場し、流れを変えた(写真◎Getty Images)
文◎北條 聡
小よく大を制す
高校時代は武南のメッシ、大学時代には法政のメッシ、そして今季から加わったFC東京で東京のメッシへ。その通り名が定着すれば、次は日本のメッシ――と、なるのかどうか。
いやいや、紺野和也ですから。残念! いや、ちっとも残念じゃない。メッシに似ているからではなく、紺野自身に十分すぎるほどの魅力があるからだ。
公称161センチ。メッシも確かに小柄だが、紺野はさらに小さい。昨季のJ1でMVPを手にした仲川輝人(横浜F・マリノス)と同じサイズだ。小よく大を制すサッカーの世界ではハンディどころか、アドバンテージに思えてくる。
それが攻撃の担い手ならば。天国に召されたオランダの巨星ヨハン・クライフもこう話していた。
「小さな選手にうまく体を使われたら、大男たちはお手上げだ。何しろ腰から下を攻められるんだから、対応が難しい。体をぶつけられても、それを逆手に取って加速してしまう」
手でボールを扱う競技では腕の高さに比例してボールの行き交う場所や位置が決まってくるが、サッカーは違う。ボールはほぼ下(地面)にあるからだ。いまも昔も、そして、おそらくこの先も「小さな巨人」は現れる。もちろん、紺野もその有力候補に違いない。
近年は日本でもバックスの大型化が進みつつあるが、大男たちが増えれば増えるほど、クライフの言う「背丈の落差」が紺野の強い味方になる。ACLのグループステージ第2節で巨人ぞろいのパース・グローリー(オーストラリア)を破った一戦はその好例だろう。
相手が籠城戦を決め込み、看板の助っ人トリオが狭い囲いの中で四苦八苦する中、切り札として投入された紺野が流れを一変させる。右の外からいとも簡単に隙間へ潜り込み、内側からブロックを破壊していった。まるでマーベル・コミックの人気キャラ『アントマン』みたいに。
すいすいと逃げる紺野に必死に追いすがる寄せ手の姿を見ていたら、何だか『トムとジェリー』(ネコとねずみ)の追いかけっこを思い出して、つい吹き出してしまった。J1クラブの守備者だって、いつ自分が哀れなトムの役回りをさせられるか分からない。