がむしゃらに動けばいいわけでもない
アンカーとは中盤の3人の中央に陣取る役割のこと。このポジションの概念を、橋本はどう認識しているのだろうか。
「多くの役割がありますね。周囲ときちんとコミュニケーションを取りながら大事なポジションを取っていくイメージです。だから、自分の出来がチームの出来を左右すると思うんです」
説明のために繰り返したのが、「コミュニケーション」という単語だ。自分に言い聞かせているかのように、何度も、何度も。
「そのためには、とにかくコミュニケーションが必要です。試合中だけではなくて練習中から細かい要求を出し合っています。練習からしっかりやっていけば、うまくいくはずですから」
意見の交換の先に達成すべき役割は多岐に渡るというが、総論として挙げると「ポジショニング」なのだという。
「攻撃でも守備でもポジショニングが大事になってきます。アンカーのポジションの取り方ひとつで、チームが良くもなるし悪くもなる。頭を働かせて集中力を切らさずに戦うことを意識しています。去年までの自分の良さをいい意味で忘れて、いいチャレンジをしていきたい」
というのが、〈チームのため〉に必要なことだ。
では、自己に矢印を向けてみるとどうか。2019年は優勝争いの主役を演じたチームでリーグ戦全試合に出場し、ベストイレブンにも選出され、日本代表にもステップアップして、いまや自他共に認める青赤の大黒柱だ。でも、まだ何かが足りないのだと自分を追い立てる。
だから、このポジションでプレーすることそのものが自分自身を変えるための「鍵穴」になっていて、そのチャレンジに向かう覚悟が「鍵」として機能し、扉が開くのだということを予見している。
「これは、殻を破ることができるチャンスです。プレーの幅を広げていきたいと思います」
「運動量が求められるし、でもがむしゃらに動けばいいわけでもない。ボールを奪いにいくのは自分の強みだけど、前に出ていくことでそこが穴になることもある。前に出ていくときとスペースを埋めるときのバランスが本当に大事になってきます。周りに声をかけてコミュニケーションを続けていかないと」
「成長につながると思って、本当にワクワクしているんです」
一貫して、適度に肩の力が抜けた、清々しい表情だったのが印象的だ。「ソロデビュー!」の軽妙な言葉も、心の真ん中にある本気の覚悟をこの場ではあえて重たく見せないためのカモフラージュだったのだろう。
ところで、例のポスターにはこんなキャッチコピーが添えられている。
「今年こそ超える」
2020年、橋本拳人は誰を、何を超えるのだろうか。
取材◎平澤大輔