上写真=新体制発表で活躍を誓った手塚康平(写真◎BBM)
何度も見返したYouTube
武器は正確な左足キックと広い視野、そしてパスセンス。2017年、柏レイソルでピッチに君臨する手塚は、まさしくチームのかじ取り役で、輝かしい未来を想像させる存在だった。しかし、同年8月に右ヒザを負傷し、長期離脱。キャリアが暗転する。約9カ月後に復帰を果たすが、その後は自身も納得のいく結果を手にできなかった。
昨季も思うように試合に絡めず、リーグ戦での先発は9試合に留まった(途中出場は9試合)。今回、柏から横浜FCへの移籍を決断した理由を聞くと、率直な思いを口にした。
「プロ5年目になりますし、出場機会を求めて決めました」
そして移籍先を横浜FCに決めた理由については、やはり恩師の存在があった。
「シモさん(下平隆宏監督)は柏ユースの頃も指導してもらいましたし、トップに上がってからも一緒に戦いました。今回、自分のストロングを分かっている監督がいる中で、声をかけてもらったのは、大きいです」
もちろん、どこに移籍しても競争はつきものだが、横浜FCなら、自分の強みをよく知る指揮官の下でリスタートを切ることができる。加えてもう一つ、子どもの頃から見てきた選手がいる点も決断を後押ししていたのかもしれない。手塚自身が一つのエピソードを明かしてくれた。
「ユース時代、シモさんから中村俊輔選手のYouTubeの映像集が送られてきたことがありました。どういうやり取りの中で送られてきたのかまでは覚えていないんですけど、よく見返して参考にしていました。状況判断とか、キックの種類とか、ボールの質とか」
かつての恩師は今、中村俊輔がプレーするチームの監督で、そして今度は自分がチームメイトになった。これからは毎日のように、映像ではなく、間近でその技術に触れることができる。
「小さい頃から見てきた選手。色々と学びたいですし、プレー中にどんなことを考えているのか、知りたい」
ボランチが主戦場である手塚は、中村とポジションを争う関係にある。そこはプロの世界、リスペクトの思いが消えることはないものの、当然ながら勝負を挑むことになる。貪欲に吸収して、成長し、ほかのライバルたちとも競って定位置どりを目指していくつもりだ。
すでに昨季の横浜FCの映像を見て、最新の下平サッカーの理解も進めているという。その印象を問うと、アップデートされてはいても、ベースは大きく変わらないと語った。
「基本的にボールを丁寧に扱うという根本は変わっていないと思います。今だったらマンチェスター・シティがポゼッションの部分で秀でていて、それをシモさんも目指しているのだと思いますが、根本は変わらないと思うので、イメージはできます。その中で球離れの部分は言われてきましたし、そこは自分も得意なプレーなので、早くチームにフィットして、持ち味を出していきたい」
心機一転を図り、飛躍を誓う手塚。13季ぶりのJ1を戦うチームに、下平サッカーを知る新たな戦力が加わった。
取材◎佐藤 景