上写真=天皇杯を掲げる黒田剛監督は充実の表情(写真◎高野 徹)
■2025年11月22日 天皇杯決勝(観衆31,414人/@国立)
町田 3-1 神戸
得点:(町)藤尾翔太2、相馬勇紀
(神)宮代大聖
半信半疑だったと思う
天皇杯決勝に臨む前、FC町田ゼルビアの黒田剛監督は選手たちに語りかけた。青森山田高校の監督として数多くの「決勝」を戦い、何度も勝って何度も負けたそのキャリアによって紡がれた言葉を選手に投げかけた。
「私がまだ(プロで)監督3年目ということもありますけども、高校サッカー時代に国立競技場、それから埼玉スタジアムでファイナルという重圧かかったゲームを何試合もやってきた中で感じたことを、素直に選手たちには伝えさせてもらいました。
負けたときもあれば、勝ったときもありました。それがどういう原因であったか。それを選手たちに本当に細かく伝えてきました。
刻まれたその時間ごとの選手たちの精神状態、または相手チームの精神状態をどういうふうに自分たちが利用しながら飲み込んでいくか。いろいろな駆け引きの中で選手たちは、半信半疑ではあったと思うんですけども、しっかりと遂行してくれたと思います」
最も象徴的なものが「前半15分」だった。
「前半15分までには必ず得点が動くと。些細なPKを取られるのか、またはフリーキックが入るのか、あるいは単純なミスからロストして1点取られるのか。そういう、本当にイメージしなかったものが15分以内に必ず1回起こるということを話しました」
その15分で相手に何もさせずに、自分たちが何かを起こす。それが序盤のプランだった。左サイドで林幸多郎のロングスローをミッチェル・デュークがヘッドで触り、相手クリアが中途半端になったところを中山雄太が拾ってから突破してクロス、藤尾翔太がヘッドで押し込んだ先制ゴールが生まれたのは、開始6分のことである。
予言のようにも聞こえるが、あくまで経験則。では、それを成功させることができたのはどうしてだったのか。
「いろんなものに戸惑いながらとか、または囚われながら、惑わされながら試合を進めていく、またはそういう配慮をしたときは必ず失点をする。自分たちの強みをよりシンプルに、そしてもちろん神戸さんのほうも一気に襲いかかってくるというイメージを持ちながら、さらに我々はそこより上の強度、強さ、そして何よりも気持ち、そういったものをしっかりと持っていこうと。受けて立った瞬間に必ず失点するとイメージできるので、特にこの15分は押せ押せでいけるように、彼らが描いてたもの以上の圧力、勢いを持って入ろうと特に強調しました」
ロングスローと空中戦をミックスさせた1点目も、カウンターからオープンスペースを相馬勇紀のスピードを生かして突いた32分の2点目も、中盤のこぼれ球に相手より速く反応した林幸多郎がつないで藤尾が迷いなく左足を振った56分の3点目も、「強み」を「シンプル」に重ねることによって生まれた。
「例えば帝京の小沼先生や国見の小嶺先生など、高校で私がお世話になった先人の方々がこの国立の魔物については本当によく語られていました」
その決勝戦の魔物に、プロの監督として初めて勝った。そして、FC町田ゼルビアも初めて勝った。
「日々、不安と恐怖と戦いながら、果たして自分がタイトルにたどり着けるのかどうか、自問自答しながら進んできた3年間」だという。ただ、「最初の15分」も「魔物」も、何も高校サッカーだけの真理ではなく、フットボールそのものの真理である。黒田監督はこの決勝で、その長年のキャリアを地続きで形にしたということになるだろう。
