天皇杯 JFA 第105回全日本サッカー選手権大会は11月16日に準決勝が行われ、FC町田ゼルビアがFC東京を2-0で破って、クラブ史上初の決勝進出を果たした。どちらも効果的に攻められない展開で、試合を動かしたのは町田の林幸多郎。103分に決めたバースデーゴールが決勝点になった。

上写真=林幸多郎が「秘密兵器」として勝利に導いた(写真はJ1柏戦から/写真◎Getty Images)

■2025年11月16日 天皇杯準決勝(観衆25,961人/@国立)
町田 2-0(延長)FC東京
得点:(町)林幸多郎、オ・セフン

画像: ■2025年11月16日 天皇杯準決勝(観衆25,961人/@国立) 町田 2-0(延長)FC東京 得点:(町)林幸多郎、オ・セフン

「幅が広がってきている」

 林幸多郎が自ら決めたバースデーゴールが、クラブを史上初の天皇杯決勝に導いたのだ。気持ちいいに決まっている。

「誕生日に点を取れるなんてもうないと思いますし、すごいいい日になったなと思います」

 笑顔が止まらなかった。

 ともに攻めあぐねて堅い展開となった一戦は、0-0のまま延長戦へ。その前半、トータル103分に決めた。昌子源からのロングパスにオ・セフンがヘッドで前に流したところに走り込み、センターバックのアレクサンダー・ショルツとGK波多野豪の間に落ちたボールに右足をねじ込むように伸ばして押し込んだ。

「転がってくるな、というのは何回もあって、セフンがうまく後ろにそらしてくれたんで、迷わず飛び込みました。ショルツ選手がスピードを緩めたので、ボールには触れそうだなと足を出しました」

 この日は徹頭徹尾、最前線へのロングボールを蹴り込んでいった。最初はミッチェル・デュークがターゲットで、75分からはオ・セフン。なかなか決定機にはならなかったが、それでもこぼれ球を狙って繰り返し走ったことが歓喜を生んだ。

 1週間前のJ1第36節でも同じ相手、同じ場所で戦ったが、その試合に林は出場していない。そして、この日は先発。黒田剛監督は自らのマネジメントをこう明かす。

「やはり力を分散させながら、またはリーグで見せなかったものを天皇杯で見せること、相手にとって脅威を感じさせなかったものをまた脅威として感じさせていくこと」

 林が生み出す脅威の一つがロングスローだ。「一番投げられるし、精度も高い」と黒田監督が評価する武器である。この連続した2試合を別の大会のそれぞれ独立したゲームととらえながらも、そのロングスローを一発勝負のトーナメントにぶつけるために、黒田監督が林を1週間前は隠していたということになる。つまり、秘密兵器。

 ロングスローで相手を怖がらせたのはもちろん、ゴールまで挙げてしまうのだから、まさに「いい日」である。

 ところで、ウイングバックの林がなぜあのとき、中央にいたのか。相馬がシャドーでプレーするとき、単独突破の得意な相馬が外にポジションを取り、ウイングバックの選手が内側に入ることはパターンの一つなのだ。ただ、相馬に言わせれば、林は最初はその役割が苦手だったそう。

「幸多郎はいまはもう、あそこのほうが得意って言ってました。最初は僕が開いてるとき(に中に入るの)が苦手だったみたいなんですけど、僕とやりすぎていまはシャドーの位置が得意みたいです」

 少し冗談めかしながらも、コンビネーションの良さをアピールするのだった。それは林も同じ。

「練習からそこはうまくやれていたので、いつも通りっていう感じですね。日頃の練習から、立ち位置だったりプレーの選択肢だったり、どういうことができるかと思いながらやっているので、幅が広がってきているんじゃないかな」

 左にドリブラーの相馬が開き、中央にターゲットマンとしてデュークやオ・セフンがいて、ロングボールが飛んでいく時間にその間を駆け抜ける。その作業を繰り返した結果のうれしいゴールだ。

「無駄走りじゃないですけど、自分がランニングすることで相手もずれるので、そこは自分の強みとして量をこなしていきたいという感じです」

 ヴィッセル神戸と激突する天皇杯決勝の舞台でも、同じようにその駆け抜ける勇姿が見られるだろう。


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