天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会で、10月8日の準決勝にアビスパ福岡から勝利を収めた川崎フロンターレ。昨季は無冠に終わっているだけに、タイトル獲得への思いは強い。キャプテンの橘田健人は自らのゴールと自慢の守備でその意欲を表現したが、決勝に向けて一つ、嫌なことがあるという。

上写真=橘田健人は公式戦2試合連続でミドルシュートをたたき込んだ(写真◎Getty Images)

■2023年10月8日 天皇杯準決勝(@等々力/観衆18,547人)
川崎F 4-2 福岡
得点:(川)山村和也、橘田健人、マルシーニョ、レアンドロ・ダミアン
   (福)金森健志、鶴野怜樹

迷いなきトランジション

 5日前、右足でミドルシュートをたたき込んだのと同じような場所から、今度は左足がうなりをあげた。橘田健人が強烈なミドルシュートでチームの2点目を決めて、難しかった試合の流れを取り戻した。

 先制しながら追いつかれて迎えた53分、左から登里享平がクロス、浮き上がってきたこぼれ球の落下点に入ると左足をきれいに合わせた。「しっかりミートすることだけを考えていました」と狙いを定めてボールをとらえると、DFに当たってゴール右に飛び込んだ。

 10月3日のAFCチャンピオンズリーグ蔚山現代(韓国)戦では、89分にペナルティーエリアの外からミドルシュートを突き刺して、1-0の勝利に導いている。2試合連続の豪快ミドルで、キャプテンが乗ってきた。

 右足、左足と来て、次は…?

「やっぱり……頭ですか?」

 ちょっと考え込んでからわざと誘導尋問に乗ったのはサービス精神とユーモアの表れだが、「でも、はい、頭でも決めたいですね」とゴールへの欲が増していく姿は清々しく頼もしい。

 福岡の激しい守備に後手に回る時間もあった。40分にはレアンドロ・ダミアンがPKを止められ、2分後に失点。嫌な流れを断ち切ったのは、後半の目覚ましい守備からだった。相手のパスコースを読み、こぼれ球に相手よりも先に反応し、失ったとしてもトランジションで鋭くボールに食らいついたのは、どの局面でも川崎Fのほうだった。

「やっぱり、一人ひとりが迷わずプレーできていて、切り替えもすごく早くできていました。迷いを捨てて思いきりみんなができているときは、勢いを持っていい形でボールを奪えたり、それを攻撃につなげたりできてるのかなと思います」

 それを体いっぱいに表現した一人が、このキャプテンである。苦しい時間帯を乗り越えて自分たちに流れを引き戻すには、ボールを持てばいい。そのためには、ボールを奪わなければならない。迷いなきトランジションが、この試合における勝利へのカギだった。

 これで川崎Fとしては3大会ぶりに天皇杯決勝に進むことになった。前回の決勝のときは、橘田は大学生。それが今度は、キャプテンとして臨むのだ。

「その瞬間」をいまから夢見るほど子どもではないが、タイトル獲得へのイメージをふくらませることはプレーへの好影響にもつながる。12月9日、柏レイソルを破ればキャプテンとして初めての優勝になる。カップを掲げるのは、その両手だ。

「でも、それ、ちょっと嫌なんです」と顔をしかめてみせる。思わず笑う報道陣を見て、「いや、優勝はしたいんですけど」と言うが、縁の下の力持ちであるその実直なキャラクターとプレースタイルを見れば、その気持ちも分からなくはない。でも、キャプテンであり、2試合連続ゴールで勝利に大きく貢献するチームの主役なのだ。

 そしてもう一度、居ずまいを正して「しっかりと優勝して、カップを掲げたいと思います。それも練習しておきます」と優勝宣言だ。


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