上写真=3戦全勝で優勝を飾ったU16日本代表(写真◎川端暁彦)
勝利を経験する場に
4カ国のU-16代表が総当たり方式で対戦して優勝を競う同大会。参加したのはウクライナ、ベネズエラ、セネガル、そして日本の4カ国のU-16代表である。この年代がターゲットとするのは、来年カタールで開催されるU-17ワールドカップだ。
「それぞれ違った意味で国内では味わえないタイプのチームとの連戦は、日本の選手にとって本当に貴重な大会になる」
そう位置付けたのは、廣山望監督。10年にわたって日本のこの年代を預かってきた森山佳郎前監督(現・仙台監督)の後任としてコーチから昇格する形で、チームの指揮を執っている。
「日本と海外の違いにフォーカスし、その差を埋める」という森山イズムを継承しつつ、「世界の舞台で結果を出せる選手を育て、A代表に送り出す」という大目標を果たすために活動を続けてきた。
日本の新しい指揮官は今大会を「貴重な経験の場」としつつも、単なる「対戦経験」で満足するつもりはなかった。
「当然、優勝を目指す。代表チームとして『絶対に勝つんだ』という気持ちを持って戦い、勝利する経験を積む場にしたい」(廣山監督)
異なるタイプと対戦できる「世界経験」に満足するのではなく、異なるタイプの相手を破る「勝利経験」を積み上げること。地元開催の代表戦というプレッシャーを受けることもむしろ財産と捉え、選手たちに対しても毎試合「勝ちにいく」ことを強調してピッチに送り出し続けた。
セネガルに逆転勝ち!
ウクライナとの初戦は、戦禍の影響での準備不足に加えて来日直後でコンディションも整わなかった相手を6-0と一蹴。「相手云々ではなく、自分たちのやるべきことをまずやり切る」(廣山監督)ことを90分間にわたって徹底し、FW葛西夢吹(湘南ベルマーレU-18)らが大量6ゴール。相手のシュートも0本に抑え込んでの完勝となった。
続くベネズエラ戦は「南米勢と試合をするのは初めて」と殆どの選手が語ったように、相手の球際での強さと技術に苦戦し、特に「空中戦での勝率はかなり悪かったし、選手にそれは伝えた」(廣山監督)という課題も残る内容だったものの、FW陣が決定力の高さを発揮してFW浅田大翔(横浜F・マリノスユース)の2得点などで4-0と快勝している。
セネガルとの最終戦は敗れても得失点差で優勝できる可能性の高い状況だったが、廣山監督は「勝ち点がどうとかではなく、あくまでこの試合をトーナメントのつもりで勝ちにいく。これは決勝戦」と位置付けた。そうしてあえてプレッシャーをかけることで代表戦ならではの緊張感を選手に体感させつつ、「日本の試合では決して味わえないし、口で説明してもわからない、やってみて初めてわかる感覚がある」アフリカ勢との試合に臨んだ。
この「決勝戦」は監督の期待どおりに、来日して3試合目ということでコンディションも上がってきたセネガルの強みが存分に出る内容となった。
主将として3試合連続スタメンとなったDF横井佑弥(ガンバ大阪ユース)が「映像で観てわかってはいたけれど、思っていた以上に速くて縦にも行かれてしまった」と舌を巻いたスピード感、「シュートの打ってくるタイミングもボールスピードも違っていて、こちらの準備を上回られてしまった」とGK西川元基(柏レイソルU-18)が驚いたシュートの違いも出て、前半終了間際と後半開始早々に失点。2点のリードを許すことになってしまった。
厳しい状況に陥ったものの、日本側の士気は落ちなかった。2失点直後の54分に今大会3試合連続ゴールとなる“10番”FW吉田湊海(鹿島アントラーズユース)の得点が決まると、70分にはCKから同点に。さらに80分には交代選手3名が絡む攻撃から、最後はFW葛西夢吹(湘南ベルマーレU-18)がこれまた3試合連続となる得点を決め、大逆転。「選手の自信になる」(廣山監督)勝利で、見事に優勝を飾ることとなった。
FWが競い合う好サイクル
今年秋にU-17ワールドカップの1次予選が始まるが、よりタフな戦いは来年春にサウジアラビアで行われる最終予選、そして秋にカタールで開催が予定されているU-17ワールドカップ本大会だ。
そこに向けて大会を通じた最大の収穫はFW陣の爆発だろう。最終戦でゴールを奪った吉田と葛西、大会MVPに選ばれた浅田はいずれも大会通算3得点。「全試合でFWが複数のゴールを決めているし、吉田と葛西は全試合で得点している。これは簡単にはできないこと」。廣山監督も強調したように、FW陣が競争しながら成長していく良いサイクルを獲得しているのは好材料だ。
「この年代の代表から、日本を代表する点取り屋を育てたい」
そう語る指揮官はFW陣には「いろいろな役目があるが、まずゴールを目指すこと」を進めてきた。大会期間中には引退したばかりの元日本代表FW岡崎慎司氏の映像を編集して見せて、ストライカーらしい点の取り方と、その重要性を強調した。
もちろん、その成果がすぐに出たという単純な話ではない。ただ、中盤ありきのサッカーになりがちな各年代の日本代表にあって、FWが仕留める前提でのゴールから逆算したサッカーを志向した成果は、早くも見え隠れしており、ここからの成長をさらに楽しみにしたくなる内容だったのも間違いない。
来年のU-17ワールドカップへ向けて、さらなる大化けを期待したい。
取材・文◎川端暁彦