1月28日から30日の日程で福島県のJヴィレッジにおいて2022年度 第22回東北高校新人サッカー選手権大会が行われた。決勝で岩手の遠野を3−0で破り優勝したのは、新体制となった青森山田。黒田剛前監督のいない新チームはどんな戦いを見せたのか?

上写真=第22回東北高等学校新人サッカー選手権大会に優勝した青森山田の選手たち(写真◎川端暁彦)

文・写真◎川端暁彦

黒田前監督が完全に離れた初の大会

「プレッシャーはね、それはもう、ありましたよ」

 青森山田高校の正木昌宣監督はそう言って安堵の笑みを浮かべた。1月30日、福島県のJヴィレッジにて行われた東北高校新人サッカー選手権大会決勝後のことである。

 黒田剛前監督がJ2町田の監督に就任して学校からも完全に離れて迎える最初の大会だった。

「黒田監督が抜けたから、青森山田は弱くなるのでは?」

 そんな懐疑的な視線がチームに注がれるのは分かっていた。だからこそ、新指揮官は特別な覚悟をもってこの最初の大会に臨んでいた。

「選手にはそこまで言わなかったですが、自分としては『この大会は勝たなければダメだ』と思っていました」

 結果は、見事優勝。決勝で遠野高校を3-0で下し、2年ぶりにタイトルを奪還してみせた。正木新体制で臨む最初の大会で掴んだ最初の優勝だった。

 先の全国高校サッカー選手権大会では正木監督が陣頭指揮を執り、黒田前監督がアドバイザー的な立場でベンチに座るという体制で臨んだ。

 これまでも黒田監督不在時にチームの指揮を執るという経験は何度もしていた。「ベンチから前に出て指示を出すことはずっとやっていたから」と違和感もないはずだったが、やっぱり「監督とコーチでは見える景色がまるで違う」。

 気付けば時計の針が進んでいて、「80分間が20分くらいの感覚だった」と言う。準々決勝で神村学園高校に苦杯。試合の映像を振り返ると「コーチとして観ていたら見えていたはず」のものが見えていない自分に気付いて愕然としたと言う。「もっと何かしてあげられたはず」という悔恨を残す、苦い記憶を刻んだ選手権での監督デビューだった。

東北制覇でリスタート

画像: 選手に語りかける正木監督(写真◎川端暁彦)

選手に語りかける正木監督(写真◎川端暁彦)

 正木監督は青森山田高校のOB。まだ黎明期だった時代に北海道からチームへ加入した。大学卒業後に母校に戻り、コーチとして、また教員として選手たちの指導に当たってきた。近年は「黒田監督の右腕」として広く認識されるようになっており、日常のトレーニング含めて現場のほとんどの部分を預かってもいる。

 それだけに平和な政権交代に伴う大きな混乱は特に生じてはいない。ただ、「僕自身がそうだったように、ヘッドコーチってすぐ育つものじゃないですから」と正木監督が言うように、役割分担は同じではない。黒田前監督のやっていた仕事を正木新監督が引き継ぎつつ、正木ヘッドコーチの仕事は自身が引き続き担当する部分を含めて分散させるつもりだ。

「良いものを持ったコーチはいます。ただ、いきなり全部任せたというわけにはいかない。コーチは単に優秀な指導者であればいいというものではないですから」

 そもそも正木監督が真の意味で名参謀だったのは黒子に徹する力があったからである。「監督より前に出ることは絶対にしない」と自分で決めて、サポート役としての立場を徹底してきた。黒田前監督から現場の権限を委譲されればされるほど、そこは逆に気を遣っていた印象が強い。

「取材も基本的に受けてこなかったので」と言うように、「最強高校の名参謀」の特集をしたいと意気込むメディア関係者は少なくなかったが、そうした申し出も謝絶してきた。指導に当たるに際しても「黒田剛を自分に下ろしてしゃべる」意識で当たってきたと笑って言うように、その徹底ぶりによって黒田前監督との名コンビが成立していたわけだ。

「どうしてもコーチは自分の主観、サッカー観で選手を指導してしまうことがある。でもそれだとチームコンセプトから離れてしまって選手も混乱してしまう。もちろん自分なりの言い方ややり方はあるんだけれど、目指すチームの姿というゴールは統一されていないといけない」(正木監督)

 その意味で言えば、「正木色」が出てくるのはここからの話ということにもなるのかもしれない。実際、今大会は攻撃にかける枚数をあえて削らず、最後まで攻め切るスタイルを披露した。東北の強豪校を相手に4試合で23得点を叩き込んだ。

「今までは1-0で勝つサッカーを目指していたところがあったけれど、3点、4点、5点と狙っていくチームを目指そうとは選手に言ってある」(正木監督)

 もちろんそれは、青森山田らしさを放棄するということではない。「ゼロにこだわるのは大前提」と言う強固な守備組織と個人のハードワークというベースは持ちつつ、「攻撃ではもう少しやれることを増やしていきたい」という考え方だ。

 高校サッカーに一時代を築いた黒田前監督が去り、「正木新監督」の下で青森山田は新たなスタートを切った。次に向かう先は4月に開幕する強豪ひしめく高円宮杯プレミアリーグ。「雪がもっと降ってくれれば、もっと鍛えられますから」と笑う名コーチに率いられた新生・青森山田が東北制覇でのリスタートを飾った。


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