歴史を学ぶ『日本サッカー温故知新』の第8回。この連載では日本サッカーが大きく発展した『平成の30年間』を写真と記録で振り返る。平成8年度(1996年度)は語り継がれる「奇跡」が起こり、鹿島が常勝軍団としての一歩を踏み出した。

上写真=アトランタ五輪のブラジル戦で相手のミスを突いて伊東輝悦(写真)が決勝点。世紀の番狂わせを演じた(写真◎サッカーマガジン)

複雑だったワールドカップ共催決定

 世界が日本へやってくることが決まった年であり、日本がまた一歩、世界へ近づいた年でもある。

 2002年のワールドカップが、日本で開催されることが決まった。ただ、5年をかけた招致活動の結果は、素直に受け止められるものではなかった。開催地決定投票の直前、FIFA(国際サッカー連盟)に提案された案をのまざるを得なくなったのだ。激しい招致争いを繰り広げてきた韓国との共同開催で決着したからだ。

 だが落胆の約2カ月後に、大きな歓喜が日本を包む。28年ぶりのオリンピック出場を決めていたU-23代表が、アトランタ大会の初戦でブラジルを撃破した。いわゆる「マイアミの奇跡」である。伊東輝悦が挙げた1点をブラジルの猛攻をGK川口能活やDF松田直樹らが守り抜き、1-0で勝利。全カテゴリーを通じても初となる快挙だった。

 その後、グループステージ第2戦で同大会で優勝するナイジェリアに0-2で敗れたものの、ハンガリーに3-2で逆転勝ち。ただそれでも得失点差で3位となり、惜しくも決勝トーナメント進出はならなかった。とはいえ、その戦いぶりは大きな注目を集めることになり、Jリーグが若き選手たちを成長させた証明ともなった。プロ化で、まかれた種は確実に芽吹いていた。

■平成8年度の主な出来事(1996年シーズン)

・2月22日 カールスバーグカップ決勝で日本は惜しくもPK(4-5)でスウェーデンに敗れる
・2月28日 大分トリニティが史上最速でJFL昇格
・3月3日 全日本女子選手権でフジタが初優勝(第17回・95年度)
・3月9日 ゼロックス杯で名古屋が横浜Mを下して優勝
・3月16日 Jリーグ開幕。ホーム&アウェー2回戦総当たりの1シーズン制で実施
・3月22日 井原正巳がAFC年間最優秀プレーヤーに選ばれる
・3月24日 アトランタ五輪の出場が決定。前園真聖らの活躍で28年ぶりにアジア予選を突破した
・5月31日 2002年W杯が日韓共催に決定
・6月17日 アトランタ五輪に出場する代表メンバーを発表
・7月6日 オールスターでJ・ヴェガが勝利。ストイコビッチがMVP
・7月7日 第1回Lリーグカップはベレーザが優勝
・7月21日 アトランタ五輪で日本がブラジルを下し、以後「マイアミの奇跡」として語り継がれる
・7月25日 アトランタ五輪、日本はグループリーグ3位で敗退
・8月3日 インターハイは清水商高が2年ぶり4回目の優勝
・8月18日 Lリーグ開幕
・9月1日 高円宮杯(U-18)は鹿児島実高が初優勝
・9月25日 ナビスコ杯で清水が初優勝
・9月28日 名古屋を率いたアーセン・ベンゲル監督が退任
・10月1日 AFC U-17選手権(タイ大会)の準決勝で敗退し、U-17W杯の出場権を逃す
・10月10日 JOMO CUPはWORLD DREAMSが勝利
・11月9日 鹿島が1ステージ制でJリーグ初優勝
・11月19日 神戸のJリーグ昇格が決定
・11月26日 アジアカップウィナーズ杯で名古屋がアルヒラル(サウジアラビア)に敗れて準優勝
・12月8日 大学選手権で国士舘大が14年ぶり2回目の優勝
・12月15日 アジアカップ(UAE大会)の準々決勝で日本はクウェートに敗れる
・12月22日 Lリーグは日興證券が初優勝
・97年1月1日 天皇杯はV川崎が初優勝(第76回・96年度)
・97年1月8日 高校選手権は市立船橋高が2年ぶり2度目の優勝(第75回・96年度)
・97年1月19日 全日本女子選手権で日興證券が優勝(第18回・96年度)

画像: 永遠のライバル韓国とのピッチ外の激しい争いは、まさかの結末が待っていた。大韓協会のチョン・モンジュン会長(右)の横で、日本協会の長沼健会長は浮かない顔で記者会見に臨んだ(写真◎サッカーマガジン)

永遠のライバル韓国とのピッチ外の激しい争いは、まさかの結末が待っていた。大韓協会のチョン・モンジュン会長(右)の横で、日本協会の長沼健会長は浮かない顔で記者会見に臨んだ(写真◎サッカーマガジン)

画像: 主将として五輪代表チームをけん引した前園真聖(写真◎サッカーマガジン)

主将として五輪代表チームをけん引した前園真聖(写真◎サッカーマガジン)

画像: 防戦一方となったアトランタ五輪のブラジル戦で好セーブを連発した川口能活(写真◎サッカーマガジン)

防戦一方となったアトランタ五輪のブラジル戦で好セーブを連発した川口能活(写真◎サッカーマガジン)

画像: 結果的にナイジェリア戦の2失点が響き、日本はアトランタ五輪で決勝トーナメントに進めなかった。写真中央は松田直樹(写真◎サッカーマガジン)

結果的にナイジェリア戦の2失点が響き、日本はアトランタ五輪で決勝トーナメントに進めなかった。写真中央は松田直樹(写真◎サッカーマガジン)

画像: アジアカップは準々決勝で敗退。写真はグループステージの中国戦でシュートを放つ城彰二(写真◎サッカーマガジン)

アジアカップは準々決勝で敗退。写真はグループステージの中国戦でシュートを放つ城彰二(写真◎サッカーマガジン)

鹿島、常勝の歴史が始まる

 1シーズン制が採用されたJリーグでは、鹿島アントラーズが初優勝を果たした。JリーグMVPを受賞するジョルジーニョを中心に、ベストイレブンに選ばれる相馬直樹らが活躍し、勝ち点を重ねた。今では日本で最もタイトルを手にしたクラブだが、常勝の歴史は、ここからスタートした。

 Jリーグカップ(ナビスコカップ)でも新王者が生まれている。清水エスパルスがヴェルディ川崎をPK戦の末に破って初優勝。FW長谷川健太、MF澤登正朗を中心とした攻撃と、DF堀池巧、森岡隆三、斉藤俊秀らによる守備がかみ合い、初戴冠を成し遂げた。

◆平成8年度の主なタイトル一覧
Jリーグ:鹿島アントラーズ
天皇杯:ヴェルディ川崎(第76回・96年度)
Jリーグ杯:清水エスパルス
JリーグMVP:ジョルジーニョ(鹿島)
Jリーグ得点王:カズ(V川崎)
Jリーグ新人王:斉藤俊秀(清水)
Jリーグ優勝監督賞:ジョアン・カルロス(鹿島)
高校選手権:市立船橋高(第75回・96年度)
高円宮杯U-18:鹿児島実高
大学選手権:国士舘大
Lリーグ:日興證券ドリームレディース

画像: 2位の名古屋に勝ち点3をつけて鹿島がついに頂点に立つ。ここから常勝の道を歩き始めた(写真◎サッカーマガジン)

2位の名古屋に勝ち点3をつけて鹿島がついに頂点に立つ。ここから常勝の道を歩き始めた(写真◎サッカーマガジン)

画像: 鹿島の優勝に、誰よりも喜んだのがクラブの礎を築いたジーコだった(写真◎J.LEAGUE)

鹿島の優勝に、誰よりも喜んだのがクラブの礎を築いたジーコだった(写真◎J.LEAGUE)

画像: 鹿島の優勝に大きく貢献したジョルジーニョがリーグMVPを受賞した(写真◎J.LEAGUE)

鹿島の優勝に大きく貢献したジョルジーニョがリーグMVPを受賞した(写真◎J.LEAGUE)

画像: PK戦にもつれ込むV川崎との激闘を制して清水エスパルスが初めてナビスコカップを掲げた(写真◎J.LEAGUE)

PK戦にもつれ込むV川崎との激闘を制して清水エスパルスが初めてナビスコカップを掲げた(写真◎J.LEAGUE)

画像: 決勝戦の先制点を挙げたのは清水の長谷川健太だった(写真◎J.LEAGUE)

決勝戦の先制点を挙げたのは清水の長谷川健太だった(写真◎J.LEAGUE)

Jリーグ順位表(1996シーズン)
順位チーム
1鹿島663021927
2名古屋633021924
3横浜F633021914
4磐田6230201015
56030201015
6浦和5930191120
7V川崎5730191126
8横浜M42301416-1
9市原40301317-2
10清水37301218-10
11平塚36301218-11
12G大阪33301119-21
13C大阪30301020-18
14広島30301020-24
15福岡2930921-22
16京都2430822-32

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