日本はラウンド16で韓国に敗れ、ベスト16の成績で大会を去ることとなった。試合後、キャプテンの齊藤未月は、今大会での日本代表を「最高のチーム」と言い表した。さらなる高みへは進めなかったものの、試合ごとにたくましく成長した日本代表は、大会出場チームの中でも屈指の実力を備えていたと言っても、過言ではないだろう。

上写真=キャプテンとしてチームをけん引した齊藤(写真◎Getty Images)

「サッカーはゴールを決めるスポーツ」

 ルブリンの地でも、日本のキャプテンはいつものように気丈だった。

「悔しいですね。勝てると思って、負けてしまったので。すべての選手が勇敢に戦ったと思います。数多くのチャンスを作れましたので」

 多少の笑みを含んだ表情も、堂々とした口調も、これまでとは変わらない。唯一、この日の違った点を挙げるとするならば、齊藤未月の目には光るものが浮かんでいたことだろうか。

 アジアのライバル・韓国との対戦となったラウンド16。終盤に失点して0-1で敗れ、今大会も“16強の壁”を越えることはできなかった。

 日本は試合の主導権を握った。ボール支配率で相手を大きく上回り、齊藤の言葉にもあるように決定的なチャンスを多く生み出した。ただ、郷家友太がもたらした先制点はVAR判定によって取り消しとなり、宮代大聖の渾身の右足シュートはゴールポストに嫌われた。対称的に、韓国のFWオ・セフンの頭をかすめたボールは、GK若原智哉の手の先を通ってゴールネットへと吸い込まれた。

「サッカーはゴールを決めるスポーツなので、決められなかった自分たちが負けて、決めた韓国が勝ったということ」

 サッカーはシンプルなスポーツだ。戦術、メンタル、ジャッジ、気候……。時にそういった要素が勝敗を分けることもあるが、元をたどればゴールの数で勝ち負けが決まる。日本の敗因は何か。まさに、齊藤の放った言葉に尽きる。もちろん、内心は悔しさや失望を感じていることだろう。それでも素直に、潔く、敗北という結果を受け止めた。

「今までやってきたことを示す」

「最高のチームだったと思うし、優勝のチャンスがあると思って戦っていた」

 今から20年前、小野伸二や稲本潤一らを擁して“黄金世代”と呼ばれた20歳以下のチームが、当時のワールドユース選手権で準優勝。FIFA主催の世界大会で、最も世界の頂きに迫った(当時)。ちょうどその年に生まれた選手たちを中心に構成された今大会の日本代表チームにも、その成績に迫り、追い抜く可能性は十分にあっただろう。齊藤の発言は決して、ただの自信や自惚れによるものではないはずだ。

 筆者も、『影山ジャパン』にはそれほどの実力が備わっていたように感じる。現地の記者席から見たグループステージ3試合は、正直負ける気がしなかった。

 守備について言えば、フィールドの10人の距離間が抜群に良かった。特に2戦目のメキシコ戦と、3戦目のイタリア戦。世界の強豪国を完封した2試合では、素早く球際へ寄せ、相手にスペースを与えず、ルーズボールを回収する場面が目立った。ボールの位置や相手の戦い方で状況が変わりゆく中、選手たちは味方の位置を確認しながら、連動して位置取りを変えていく。時には広がり、時には狭まり、メキシコ戦では今大会注目アタッカーのディエゴ・ライネスを包囲して自由を与えなかった。

 また、敵が強引にシュートを打ってこようものならば、最後方の若原が難なくボールをセーブした。フィールドの配置から導き出された的確なポジショニングを駆使して、敵のシュートを次々と止めていく。韓国にゴールを割られるまで、今大会で喫した失点は初戦のオウンゴールのみ。その事実が、日本の守備組織がいかに秀逸だったかを物語っているだろう。

 攻撃面でも、毎試合で多くのチャンスを生み出した。後方でサイドバックがボールを受ければ、すかさずFWが同サイドの縦にパスを呼び込み、起点を作る。そこからボールサイドとバイタルエリアにじわじわと人数をかけ、小気味よいパス交換や、独特なリズムが特徴的な斉藤光毅のドリブルで、相手ゴールへと迫った。CKやFKといったセットプレーを得れば、一回ごとに動き方とキックの軌道を変え、決定機を作った。

 イタリア戦と韓国戦はともに無得点に終わったわけだから、チャンスを作っても最後の精度が足りないことなど、課題は多い。それでも、個人の独力突破や相手のミスで局面を打開するのではなく、チームとして整備されたコンセプトの下で、一人ひとりがアグレッシブな役割を果たしながら攻撃を仕掛けていた。

画像: イタリア戦でも中盤で存在感を放った(写真◎Getty Images)

イタリア戦でも中盤で存在感を放った(写真◎Getty Images)

 その中心にいたのが、齊藤だった。10番を背負い、キャプテンマークを巻く姿はもとより、ピッチ上で見せるそのプレーぶりが光った。165センチの小柄な身長を感じさせないくらい、すべてのプレーのスケールが大きい。相手ボールホルダーに全身をぶつけ、優れたボディバランスを生かしてボールを奪い取る。すると、すぐさま前方のスペースを確認し、FWの走るコースへパスを供給。「10番は小さいのに、信じられないような身体能力を持っている」と、対戦国の記者もそのインテンシティーの高さや無尽蔵のスタミナに舌を巻いていた。

「(走力が優れているのは)湘南の選手だからこそだと思います。自分が今まで、何をやってきたのか。僕にとってはそれを示すことが(大会を戦う中での)土台の部分なのかなと」

 イタリア戦後には、所属する湘南での成長が大会中のパフォーマンスにつながっていることを強調した。日の丸を背負うことに加え、湘南で培われた能力を持って世界の舞台に立っている。そのプライドが、齊藤の背中をより大きく見せていたのかもしれない。

躍進のきっかけとなった言葉

 ただ、攻守に組織だった戦いを試みても、実際にチームが機能するかは分からない。相手の存在もあり、狙い通りに進まないことは多々ある。日本に敗れたメキシコをはじめ、大会を通してチームの狙いが選手のパフォーマンスや結果につながらず、グループステージ敗退を余儀なくされた国もある。

 振り返れば日本にも、そうなっていた可能性はあっただろう。指揮官が「エクアドルが良いチームだということを選手たちに強調しすぎて、前半のようなパフォーマンスになってしまった」と反省した初戦。後半も相手に主導権を握られていたら、その後の結果はどうなっていたか分からない。戦局を一変させた若原のPKストップに、山田康太の同点ゴールがなければ、続くメキシコ戦以降も攻守で後手に回っていたかもしれない。

「(試合への)入り方は悪くなかったと思うのですが、チームとしてボールを受けることとか、『やってやろう』というところからビビったプレーが多くて。やっぱりみんながボールをもらおうとしないと、あのような形で(前半の)最後に失点してしまうんだなと理解しました」

 浮き足立ったエクアドル戦の前半で、チームの『自信』と『信頼』は失われつつあった。だが、後半を迎えるピッチの上で、齊藤はチームメイトに言い放つ。

「ミスってもいい。そこから取り返せばいいじゃん。失点しても、取り返せば大丈夫だよ」

画像: エクアドル戦のハーフタイム、齊藤は仲間たちに言葉を放った(写真◎Getty Images)

エクアドル戦のハーフタイム、齊藤は仲間たちに言葉を放った(写真◎Getty Images)

 日本の選手たちに勇気が湧き、後半開始直後のPK阻止で自信を取り戻した。

「個人的にもチームとしても、トモ(若原)が(PKを)止めてくれるんじゃないかなという気持ちがあった。やっぱり止めて、(その後)みんなで素早くリカバリーをして、(山田)康太がクリアして。そういうことが自分たちの得点にもつながったのかなと思います」

 快進撃のきっかけが生まれた瞬間だった。齊藤は淡々とピッチ上のやり取りを明かしたが、劣勢の中でも変わらぬ毅然とした姿で説得力のある言葉を放つ彼だからこそ、チームを復調させることができたのかもしれない。

「この先のサッカー人生がある」

 ビドゴシュチから始まったU-20ワールドカップの戦いは、決勝の地ウッチにたどり着くことなく、ルブリンで終焉を迎えた。韓国戦を終え、日本の選手たちは帰国の途に就く。

 日本に帰れば、選手たちはそれぞれ、所属チームでJリーグなどを戦う。17歳の西川潤や16歳の鈴木彩艶は、10月のU-17ワールドカップに参加する可能性も高い。他の選手たちは、来年の東京オリンピック代表、そしてA代表を目指していくことになる。

「(日本にとって)大会は終わったけれど、ここで得たものは大きい。みんな、この先のサッカー人生があるので、それに向けて努力していきたい」

 キャプテンは最後まで気丈だった。その目はすでに、次なる戦いを見据えていたようにも感じる。そう遠くはない未来に、さらに大きな舞台で、再び齊藤のキャプテンシーは輝きを放つことだろう。

 今大会で「最高のチーム」は、ラウンド16で散った。だからこそ、次は名実ともに「最高のチーム」にするために――。齊藤未月の挑戦は、これからも続いていく。

文◎小林康幸

画像: 笑顔を絶やさないキャプテンの姿が、日本の躍進を支えた(写真◎Getty Images)

笑顔を絶やさないキャプテンの姿が、日本の躍進を支えた(写真◎Getty Images)

■U-20ワールドカップ 日本代表の戦績

GS第1戦 1-1エクアドル(得点者:山田康太)
GS第2戦 3-0メキシコ(得点者:宮代大聖2、田川亨介)
GS第3戦 0-0イタリア
ラウンド16 0-1韓国


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