上写真=ベトナムを下して日本は準決勝に進出した(写真◎福地和男)

■AFCアジアカップUAE2019 準々決勝
 ベトナム 0-1 日本
 得点*(日)堂安律

 1月24日、日本代表はベトナムと準々決勝を戦い、1-0で勝利を収めた。戦前、指揮官は「厳しい試合になる」と話したが、その通りの大接戦。ラウンド16のサウジアラビア戦とは異なり、ボールは支配したものの、1点が遠く、手にしたのは堂安律のPKによる1点のみ。それでもその1点を守り切り、前回優勝した2011年大会以来、8年ぶりに準決勝進出を決めた。

したたかなチームになっている(長友)

 サウジアラビア戦から大幅にメンバーを変更することも予想されたが、森保一監督の選択は出場停止の武藤嘉紀に代えて北川航也を起用しただけで、他10人は同じ顔触れだった。布陣は4-2-3-1。GK権田修一、DFは右から酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、長友佑都、MFはドイスボランチを柴崎岳、遠藤航が務め、2列目には右から堂安、南野拓実、原口元気、1トップは北川が務めた。
『勝っているチームは触るな』という格言があるにせよ、サウジ戦から中2日。疲労の蓄積を考慮する考えはなかったか。試合後、その意図を指揮官は明かしている。

「もっと多くの選手を入れ替えて臨むということも考えましたが、トレーニングができない状況でしたし、サウジアラビア戦からお互いに良い連係、連動のもと、このベトナム戦に向けて準備して戦うことが(ベストと判断したのが)選択の理由です」

 深まりつつある連動性を武器とする策はしかし、試合の前半は空転した。機動力と技術力、そして運動量を最大限に生かすベトナムに手を焼き、思うようにゴールに迫ることができない。逆に自らのミスと相手の速攻の迫力に気圧されて、ピンチを招いた。

 それでも慌てないのが、今大会の日本の強み。戦前からベトナム戦に「苦戦することも十分にあり得る」と指摘していた長友は、こう言った。

「締めるところは締めていたし、したたかなチームになっている。今までの日本は自分たちのサッカーができなかったりだとか、相手にボールを持たれるとナーバスになっていた。でも、今は最終的に身体を張れば問題ない。成熟していると、ピッチの中で思う」

 確かに慌てるそぶりは見られなかった。前半24分にはこの準々決勝から導入されるVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によってCKから決めた吉田の得点が、ハンドと判定されて取り消された。それでもチームには一切の動揺はなかった。

「きょうもVARで取り消されちゃいましたけど、でも、そのあとしっかり盛り上げて、もうひと踏ん張り、もう一回ギアを上げてやっていくようなところが大事だと思う。それを我慢強さって監督は表現したりしますけど、その辺は日本の良さだと思います」

 ドイスボランチの一角を務め、後半からは柴崎と話し合ってポジションを修正しつつ、ともに縦パスを配して相手を後手に回らせた遠藤も、現在の日本の持ち味について触れた。

本当の先制点を堂安が決めた

 後半になって、日本のボールが走り始める。ベトナムのボランチの『食いつき』の良さを逆手に取って、その背後のスペースをしっかり使っていったことが要因の一つ。原口と堂安が内側にポジションを取り、そのスペースを使いながら、外ではなく中を意識的に突いていった。後半、日本の戦いぶりが好転した理由について、柴崎はこう説明する。

「一つはやっぱりチーム全体としてパスワークのリズムが前後半で違ったということ。後半ちょっと良くなったのは、短いパスが、たとえばワンタッチで続いて、相手の目線がブレているときに縦パスだったりとか。相手のボランチが食いついた時にその背後というパターンが増えていたとは思う。前半はちょっとCBが持つ時間帯も長かったし、ちょっと持ってから、考えてから出すという部分が多かった。後半は修正してなるべくワンタッチツータッチで相手をずらしながら。そうなると彼らもそんなに付いてこれる感じはしなかった」

 試合中に相手の特徴や弱点を見抜き、選手自身が調整して突いていくことは、森保監督が就任以来、掲げているテーマの一つだ。パスワークの活性化には、選手自身がプレーを修正したことが大きい。守備も同じだ。柴崎が続ける。

「やられるときはもちろん原因がありますし、航も非常に賢い選手なので、言わなくてもポジショニングを修正できたと思います。前半は僕もそうですし、2人の中でちょっとポジショニングミスした部分もありますけど、試合の中で修正できたことは大きなポイントかなと思います」

『本当の』先制点が生まれたのは57分。再三、中央にポジショニングしていた原口が、同じく中央に進出していた堂安にパスを通す。ボックス手前でパスを受けた堂安はそのままドリブルを仕掛け、すぐさま相手DFに倒された。いったんはそのままプレー続行となったが、この試合2度目のVARが行なわれ、結果、日本がPKを獲得した。

「(PK獲得シーンについて)あれこそ本当に、森保さんが求めてるサッカーだと思います。、後半徐々に縦パスが入って3人目が絡んで飛び出すっていう動きが(出てきた)。やっと連動できて、今大会で初めてじゃないくらいかなっていう動き出しが少しずつできてきている。ゴールの場面は元気君が素晴らしいボールくれたので、というかアシストつけてあげたかったかなと思いますけど。いい崩しから、もらえたんじゃないかなと思います」(堂安)

 いわく「自信満々で蹴りました」という堂安のPKによって先制した日本は、その後もボールを走らせて相手の体力を奪い、試合をクローズさせてみせた。
 これで5試合連続の1点差勝利。薄氷を踏む勝利の連続と映るが、指揮官は「どんな形でも勝って次のステージに進むことが大切で、そんな中、選手たちがベトナムを無失点に抑えて次に行けたのは良かったと思います。成長につながるとともに、次も成長につながるようになったので、チャレンジしたいと思います」と話し、さらなる成長を求めると言った。

 劣勢でも焦れない、ブレない、現在の日本代表。長友が実感している「したたかさ」で、勝利を重ねてきたのは間違いない。森保ジャパンが発足した昨年秋からの数試合の内容がアグレッシブさを際立たせていたことから、今大会の戦いぶりには賛否両論あるのは事実だ。ただ、優勝が今大会の明確な目標。そのために現在の選手と成長段階を鑑みて、どう戦うべきかを追求したのが今回のチームだろう。

「内容を求めて負けるのか、結果を求めてサッカーを変えていくのか、という判断の部分で、僕らは後者を選んでいる部分もあります。結果が出ないと今後につながらない部分もある。結果を出して、トロフィーを勝ち取ってこそ得られる自信もあるとは思う」

 柴崎の言葉だ。そしてこうも続けた。

「とはいえ、結果の世界ですけど、メディアのみなさんもそうですし、見ているファンの方にも魅力的なサッカーを提示しなきゃいけないというのは、プロフェッショナルである以上は、常に考えていかなきゃいけないとは思います」

 柴崎の言葉が示す通り、花も実も取る欲張りな選択を、森保監督以下、選手たちも捨ててはいない。いまは、理想形に向かう道の途中。今回は実を取りに行く比重が重いと映るが、真剣勝負の連続の中ではそれも当然と言えば当然か。

 準決勝の相手はアジア最強国と言われて久しいイラン。そこでどんな試合を見せるだろうか。運命の一戦は1月28日にアルアインで行なわれる。

取材◎佐藤景 写真◎福地和男


This article is a sponsored article by
''.