■ロシア・ワールドカップ
グループステージ1節
アルゼンチン 1-1 アイスランド
得点:(アル)アグエロ
(アイ)フィンボガソン
ドリブルを止められ、PKも失敗。スタートはよかったメッシだが、試合を決めることはできなかった
32年ぶりの優勝を狙う
アルゼンチンはあのディエゴ・マラドーナを擁し、1986年に2度目の優勝を果たして以来、栄光のカップを手にできていない。 最も頂点に近づいたのは前回の2014年ブラジル大会。堅守を武器に勝ち上がったが、決勝でドイツに敗れ、涙をのむことになった。結果、86年の再現を期待した国民は悲しみに暮れ、リオネル・メッシは批判の声を浴びることとなる。
マラドーナの、マラドーナによる、マラドーナのための大会と言われた1986年大会を、アルゼンチン国民は輝かしい記憶として持っている。だから、マラドーナ以来の才能と言われ、所属するバルセロナ(スペイン)ではクラブレベルで取れるタイトルをすべて手にしているメッシに対する期待は大きい。
しかしワールドカップ初出場となった2006年大会、2010年大会、そして2014年大会と、メッシはその期待に応えることができなかった。そして、南米の国の代表チームにとってメジャータイトルであるコパ・アメリカ(南米選手権)も、メッシが出場した際の最高成績は準優勝どまりだ(07年、15年)。メッシは、いつの頃からか代表で活躍できない選手とのレッテルを貼られることになった。
年齢的にもまた、本人が母国のメディアに答えたインタビューで示唆していることからも、ロシアW杯が、メッシにとって最後の大会になるかもしれない。つまりは、本当の意味でマラドーナに並び、超えるチャンスは今大会のみ――。
初戦で勝ち点1は…
迎えた大会初戦のアイスランド戦、試合のスタートからメッシは気持ちが乗っていた。16分には体をぶつけてボールを奪い、一気にドリブルで加速。ボールを持てば2人以上の相手がチェックに来るという異才は、そのプレーでほかの選手に時間と空間をもたらすという効果を生んでいた。
だが、19分にセルヒオ・アグエロのゴールで先制し、すぐさまアイスランドのアルフレッド・フィンボガソンに同点とされたあと、前半の終盤あたりからチームの雲行きが怪しくなっていく。それにともなって、メッシが繰り出すドリブルも、3人目で止められるケースが増える。ボックス内に切り込む際に多用する得意のワンツーも完全に読まれて、何度もストップされた。
それでも63分、メッシのとってこの試合最大のハイライトが訪れる。メッシのパスに走りこんだマクシミリアーノ・メサが、エリア内で倒されてPKを獲得。スタジアムが大歓声に包まれる中、メッシはそっとボールを抱え、そしてペナルティスポットに置いた――。
思い切りよくゴール左に蹴ったボールは、相手GKハネス・ハルドールソンにストップされてしまった。キックは完全に読まれていた。勝ち越しを決めるはずが、同点のまま試合継続となったのだ。その後もアルゼンチンはギアを上げて攻め込むが、アイスランドの集中力は途切れず、最後に体を張る守備の前に沈黙することになる。メッシとアルゼンチンが32年ぶりの優勝をかけて臨んだワールドカップの初戦で手にしたのは、彼らが望んだポイントではない、勝ち点1だけだった。
試合前、スタンドのアルゼンチンサポーターはVIP席に現れたマラドーナに熱烈な声援を送った。輝くカップをもたらした英雄は今なお、多くの人々にとって英雄であり続けている。マラドーナ以後、次なるマラドーナを求め続けていたアルゼンチンの人々にとってメッシこそが希望だった。優勝をもたらしてくれる次なる英雄に違いなかった。果たして『代表で無冠』という状況に、メッシはロシアでピリオドを打つことができるだろうか。
アルゼンチンの次戦は6月21日。相手は難敵クロアチア。真価が問われる試合になる。
文◎佐藤 景 写真◎福地和男/サッカーマガジン編集部